長毛種の秋田犬が一堂に会し、魅力を競い合う「わさお大賞」。青森県鰺ケ沢町のイカ焼き店で看板犬として愛された「わさお」にちなみ、同町で開かれてきた大会が、2021年からは有志によって大阪府で開催されている。中心となって運営しているのが、河野海(つよし)さん(49)=大阪府泉大津市=だ。

河野さんが大会を大阪で開くようになったきっかけは、愛犬の「小次郎」(雄、8歳)。2019年、青森県で開かれたわさお大賞で最高賞に選ばれた。一方で翌年はコロナ禍のため大会は行われず、その後の開催も見通しは立っていなかった。河野さんはそうした事情から大会理念を受け継ぎ、大阪で仲間の協力を得て開催するようになった。
大阪大会には全国から長毛種の秋田犬の飼い主やファンが集まる。単に愛犬の容姿や可愛らしさを競うだけでなく、動物への差別や偏見、虐待をなくそうと呼び掛ける場でもある。大会で得られたグッズ販売などの売上金や寄付金の一部は近隣の児童養護施設に届け、「子どもたちが将来、動物を大切にできる大人になってほしい」とのメッセージも伝えるようにしている。

そんな河野さんも、かつては動物にほとんど関心がなかった。子どもの頃、実家で飼っていた犬の世話は親任せ。成人してから興味を持つ機会もなく、好きなお酒を楽しみながら仕事をする不規則な生活を送っていた。
転機は小次郎との出会いだった。特に準備もないまま、軽い気持ちで知り合いから譲り受けることになった。「小さくてころころした子犬がどれぐらい大きくなるか知らなかった。知らないで飼うなんて信じられない話ですよね」と苦笑いする。
小次郎との暮らしが始まると生活は一変した。秋田犬の性格や特徴を自身で調べ、大型犬と暮らすためマンションから一軒家へ移り、好きだった酒もタバコもやめた。夜10時には寝て、外出するときはどこへ行くにも小次郎を連れていく。「完全に小次郎ファーストの生活になった」

長毛種の秋田犬として全国的に知られたわさおとの出会いも、河野さんに大きな影響を与えた。青森で開かれていたわさお大賞に小次郎と参加し、大賞に選ばれた経験は大きな喜びだった。
ところが昨年7月、小次郎が獣医師から「余命3カ月」と告げられた。急激に体力が落ち、全身の毛が抜けていく小次郎。河野さんは看病しながら自身の命のことも考えるようになった。河野さんは緑内障を患っており、将来、視力を失う可能性もある。「明日があるからと言っていたら、そうではなくなるかもしれない」。小次郎との時間を、それまで以上に強く意識するようになった。
昨年のわさお大賞は、小次郎を看病しながら11月に無事開催した。一方、運営に携わる人たちも親の介護などを抱え、手作りの大会の準備に十分な時間を割くことが難しくなっているのが現状だ。
小次郎は依然闘病中だが、幸いにして体調は徐々に回復。ただ命の危機を経験したことで、河野さんの思いは揺れ動くようになった。「わさお大賞は大切なイベント。でも準備にもかなりの時間がかかる。小次郎といる時間が少なくなってしまうのも…」と語る。小次郎を連れて秋田や青森を訪れ、遠くから大阪に足を運んでくれた人に会いに行きたいとの思いもあるという。
大会を続けたいという思いと、小次郎と過ごす時間を大切にしたいという思い。その二つの気持ちを抱きながら、今年の大会をどうするのか悩んでいる。