秋田犬の本場・大館市から熊本・阿蘇山の麓にある日本文化体験施設に先月下旬、白毛の秋田犬「ペペケオ(雄、2カ月)」が引き取られた。育ての親のブリーダー・羽沢麻美さん(45)の犬舎=大館市比内町=を訪ね、ペペケオとの思い出を聞いた。
「日本文化の一つとして秋田犬を国内外に伝えたい」―。今年7月、熊本県阿蘇市で日本文化体験施設「鳴鳳堂阿蘇」を運営する中国人実業家・蘇慶(そけい)さん(51)から、元衆院議員の高松和夫さん(78)=大正大学客員教授=を通して大館市にこんな願いが伝えられた。市観光課は、同月23日に羽沢さんの犬舎で生まれた子犬を紹介した。
犬舎は比内地区の中心部にある。羽沢さんは、元々秋田犬を育てていた夫との結婚を機に、5年ほど前から秋田犬の飼育に携わっている。現在は自宅の犬舎で約10匹と暮らしている。
ペペケオは、羽沢さんが飼育する雌の白子(しらこ、3歳)が同じ日に生んだ3きょうだいのうちの1匹。7月23日は偶然にも羽沢さんの誕生日で「なんとなく、この日に生まれる予感はしていた」と笑う。
「でも歩き始めてからの世話が本当に大変だった」
子犬たちは通常、大型扇風機などで暑さ対策を施した犬舎で夏を過ごす。しかし今年はあまりにも暑かったため、3匹は冷房が効いた羽沢さん宅の室内に放すこともあった。一方、白子は暑さが体にこたえたのか、母乳の出が悪くなってしまった。
母乳だけでは足りず、お腹を空かせたペペケオたちは「キュー」と鳴いて追加の餌をねだった。お腹いっぱいになると、覚醒したように夜な夜な犬舎内を走り回る。様子を見るため羽沢さんも犬舎に泊まり込む日々が続いた。
羽沢さんの苦労のかいあって、すくすく育った3匹は生後1週間ほどで飼い主が決まった。実は、ペペケオという名前が付いたのはこの段階。羽沢さんは、飼い主となる人に名前を決めてもらってから血統書を送る。合わせて犬の様子を動画や写真で記録し、定期的に報告する。犬を引き取る前から飼い主としての自覚を持ってもらうためだ。蘇さんは、自身が事業を展開するハワイの地名を子犬の名前にしたのだった。
飼い主の元に旅立つまで、3匹は犬舎の先輩犬と一緒に過ごした。厳しく行動の良しあしを教え込む犬もいれば、温かく見守る犬もいる。さまざまな性格の犬と接することで、自然と犬社会のルールを学んでいった。
先月27日。ペペケオを引き取りに大館にやってきた蘇さんは、そのかわいらしさに大喜びだった。羽沢さんに「ここまで大きくしてくれてありがとうございます」と感謝の言葉を述べたという。数日前から、羽沢さんが「もうすぐお父さんが迎えに来るからね」と言い聞かせていたからか、ペペケオはすぐに蘇さんになついたようだった。
現在、ペペケオのきょうだいのうち、雄のタロは長野県、雌の梅子は本県の小坂町でそれぞれ暮らす。離ればなれになっても、羽沢さんは飼い主たちと連絡を取り続ける。愛情込めて育てた家族のような存在だから、送り出した犬たちを常に気に掛けている。
羽沢さんは自身のツイッター(@kirachanfamily)で、自らが育てる秋田犬の動画や写真を紹介している。
新天地で元気いっぱい 看板犬デビューへ訓練中
ペペケオが旅立った熊本県阿蘇市の「鳴鳳堂阿蘇」は、阿蘇山を望む自然豊かな土地にある。敷地内に江戸時代の武家屋敷を模した建築物が並び、茶道や日本舞踏、武道といった日本文化を実際に体験することができる。
ペペケオの飼育担当となった増元大志さん(29)によると、熊本に到着した日はどこか寂しそうにしていたが、現在はすっかり新しい環境に慣れた様子という。
「名前を呼ぶと寄ってくる。かしこい犬という印象。やんちゃな部分もあって元気いっぱいに過ごしていますよ」
増元さんがペペケオと一緒に犬の訓練所を訪れた際、ラブラドールレトリバーやシェパードなど十数匹の大型犬に向かって、ペペケオが「ワンワン!」と力強く吠えたことがあった。
「生後2カ月なのに、自分より大きい相手に臆することなく、勇猛果敢に立ち向かう様子に驚きました」
ブリーダーの羽沢さんにこの話を伝えると「大きい先輩犬の中で育ったから物おじしなかったのかもしれないね」と笑っていたという。
今後、ぺぺケオは鳴鳳堂の一員として施設を訪れた客と触れ合いながら、日本の文化や歴史を伝える“看板犬”として活躍する予定だ。