秋田犬の素晴らしさを教えてくれた1匹目、警戒心が強い2匹目、おてんば過ぎる3匹目―。宮城県利府町の会社員田中知明さん(62)=秋田県大館市出身=は、個性豊かな3匹を育てている。「3匹いれば癒やしも3倍」と、外出先での出会いや交流サイト(SNS)を通じて秋田犬の魅力を伝えている。
赤毛のいろは(雌、5歳)と、れお(雄、3歳)は親子。虎毛で長毛の牟宗姫(雌、10カ月)は通称「むうちゃん」だ。
今月4日、実家のある秋田市に帰省していた田中さんは妻(55)、長女(27)と一緒に3匹を連れて散歩に出かけた。
お目当ては、千秋公園の大手門の堀に先月開通した遊歩道。見頃を迎えたハスを間近で鑑賞できる新名所だ。秋田に住む秋田犬の飼い主たちがSNSに投稿しているのを見て、気になっていたのだという。
この日はちょうど、秋田竿燈まつり(3~6日)の期間中だったこともあり、遊歩道は朝から多くの観光客が行き交っていた。
おてんばなむうちゃんがさっそうと前を行き、穏やかな性格のいろはと、少し臆病なキャラのれおが後ろから続く。連なって散歩していると注目され、「秋田犬が3匹もいる」と驚く人や、「写真いいですか」と声をかけてくる人もいた。
田中さんが快く応じると、すぐに数人が集まり、即席の撮影会が始まった。3匹は寝そべったポーズを見せたり、カメラに目線を合わせたりとサービス精神満点。初対面の人に触られても平気そうにしていた。
竿燈を見るため夫婦で東京から秋田を訪れていた石川幸子さん(75)も、3匹を夢中で撮影していた一人。「まさか、大好きな秋田犬にばったり出合えるなんて。フレンドリーで癒やされた。秋田で一番の思い出になった」と語り、触れ合いを楽しんでいた。
散歩中には、さまざまな質問も受けた。「体重は何キロあるんですか」「散歩するの大変じゃないですか」。田中さんは一つ一つに丁寧に答え、最後には必ず「秋田犬を飼うのっていいですよ」と付け加える。自身が心の底から実感しているからだ。
大館出身ということもあり「いつか犬を飼うなら、秋田犬がいい」と考えていた田中さん。6年前に子ども2人が独立し「今なら責任を持って大型犬を飼うことができる」と、秋田犬を迎えることにした。
最初に飼ったいろはは、大館の犬舎出身。生後50日の頃、見学に行くと、上に向かって一生懸命飛び跳ねる姿が「かわい過ぎてもう、大変だった」のだという。
いろはを飼い始めて、飼い主に忠実な秋田犬の性格にすっかり魅了された。趣味だった渓流釣りにはほとんど行かなくなり、いろはと過ごす時間が増えた。自宅での出産にも立ち会った。「名前の通り、秋田犬の『いろは』を教えてくれた存在です」。生まれた4匹の中から、妻の希望でれおを手元に残した。
れおのパートナー候補として昨年11月に仲間入りしたのが、むうちゃんこと牟宗姫だ。次に飼うのは虎毛と決めていた田中さんが、ひと目で「ビビビっときた」。知り合いが飼っている長毛の秋田犬がみな、優しい性格だと感じていたのも決め手になった。
一般的に、多頭飼いはハードルが高いと思われがちだが、田中さんは「しつけさえしっかりすれば、大変なことはない」と語る。人間に危害を加えないよう、かんではいけないことを特に強くしつけている。
元気いっぱいのむうちゃんと、おおらかに見守るいろは。れおも少しずつむうちゃんに心を開き始めている様子で、ゆったりとしたペースながら3匹の関係性を紡ごうとしている。
田中さんは「三重の伊勢神宮や男鹿のゴジラ岩など、トリオを連れて出かけたい場所がたくさんある。そのためには犬たちよりも長生きしないと。秋田犬を飼う魅力も、行く先々で伝えていけるといいな」と話した。