秋田犬といえば短毛の赤毛が代表的だが、大仙市新谷地の会社員佐藤龍子さん(63)は長毛の虎毛に魅了されている。週末になると永愛(とわ、雌、6歳)、煌龍(こうりゅう、雄、1歳)を連れて散歩コースの県立農業科学館(同市内小友)に繰り出す。
永愛と煌龍、同じ虎毛でも毛並みは異なる。永愛は白い毛の割合が多く、淡い灰色のように見える。煌龍は落ち着いた黒色だ。永愛はやんちゃで社交的。煌龍は、佐藤さんが母親と2人暮らしであるためか、男の人にまだ慣れておらず後ずさりしてしまう。「永愛はさらさら、煌龍は首元が子どものようにふわふわだけど背中は硬めでなでるとつるつる。同じ虎毛なのにこんなに違う」と佐藤さん。

農業科学館は、2023年に敷地内の果樹園でクマによるリンゴの食害があったのを受け、昨年6月に犬による「パトロール隊」を結成。敷地内を散歩して人や犬のにおいをつけ、クマを近づけさせないことが目的だ。現在、秋田犬を中心に永愛と煌龍を含む15匹が所属している。県内の市街地でクマの出没が相次ぐ中、昨年と今年、敷地内での目撃はなかったという。
クマ対策に一役買っているパトロール隊だが、来館者との交流も大きな役目だ。団体旅行客や子どもたちが訪れると農業科学館の職員がパトロール隊の飼い主に要請。見た目も触り心地も愛くるしい永愛と煌龍は人気者だ。見た目の珍しさに「本当に秋田犬なんですか」と聞かれることもしばしば。秋田犬がいても触れない場所は多く、農業科学館は飼い主公認で触れ合える貴重なスポットになっている。

佐藤さんは小学生の時に家族で白毛の秋田犬を飼い、成人した頃には父親が雌で短い虎毛の秋田犬を連れてきた。その犬が産んだ同じく短い虎毛の子どもも育て、虎毛の秋田犬は慣れ親しんだ存在だった。
虎毛の親子が亡くなり、秋田犬を飼わなくなって10年ほどたった2014年。大仙市のブリーダーから雄の子犬を迎え入れた。血統書の名前は「秀龍(ひでりゅう)号」。自身の龍子と同じ漢字であることに運命を感じて「龍」と名付けた。最初はやや毛の多い短毛だと思っていたが、成長して長毛だと気づいた。19年に永愛を「龍を永遠に愛してほしい」と名付けて迎えたが、そのときも長毛にこだわりはなかった。
しかし、23年3月に龍がリンパ腫により8歳で息を引き取った。それまで散歩で元気にリードを引っ張っていた永愛が元気をなくし、佐藤さんの後ろを歩くようになってしまった。もう一匹迎え入れようと初めて虎毛の長毛に絞って探した。昨年12月、ネットで見つけた茨城県のブリーダーから煌龍を迎え入れた。名前には「龍の分も長生きして、煌(きら)めき、輝く生涯を送ってほしい」という思いを込めた。

インスタグラムを通じて多くの秋田犬の飼い主と知り合い、永愛と煌龍を車に乗せて県内外で交流している。龍がいたときは行動範囲が広くなかったが「もっと龍をいろんな所に連れて行ってあげたらよかった」という後悔が残っており、以前よりも活動的になったという。「この子たちがいなかったら、一生会うことがなかったであろう人たちとたくさん出会えた。秋田犬は自分が生活したり、働いたりと頑張ることができる理由」。佐藤さんは永愛と煌龍の豊かな毛をいとおしそうになでた。