かみつき事故を起こし、今年1月に矯正訓練を始めた秋田犬「大河」(雄、3歳)。当初は人間に対し強い警戒心をあらわにしていたが、今では本来の明るい性格を取り戻し、トレーナーの指示も的確にこなせるようになった。
「大河、はしゃぎすぎだってば」
じんわりと汗ばむ陽気となった先月中旬、秋田市雄和椿川の秋田県動物愛護センター「ワンニャピアあきた」の庭にドッグトレーナーの鈴木明子さん(60)と大河の姿があった。
鈴木さんに会えたのがうれしいようで、大河はぴょんぴょんと飛び跳ねたり、擦り寄ったり。夏に向けて始まった換毛期の真っ只中で、動く度にはらはらと毛が抜け、地面に落ちていく。
鈴木さんが語気を強めて「だめだよ」と注意すると、行動はすっと落ち着いた。はあはあと息を切らしている大河に、鈴木さんが「暑いのと、はしゃぎすぎたのとで疲れたんだよね」と笑いかけた。
大河は2020年10月、大館市で飼い主の家族にかみついてけがをさせた。飼い主は一度保健所に引き渡したが、秋田犬の殺処分ゼロを目指す一般社団法人「ワンフォーアキタ」に相談。同法人の鈴木さんが年明けから矯正訓練を引き受けることになった。
約4か月間の訓練を振り返り、鈴木さんは「より人間の言葉が分かるようになってきた。どんな状況でも自分なりに考えて指示に応えようとしている」と話す。
例えば、当初はじっと座るだけの「待て」だったのが、今ではおやつを目と鼻の先に近づけても、目線をずらしたり、後ずさりしたりと、自分なりに待とうと努力する様子が見受けられる。
この日、鈴木さんは、ある実験を見せてくれた。ワンニャピアのエントランスホールで大河と触れ合った後、鈴木さんが退出。すると、大河は不安そうにドアの方向をじっと見つめ、その場で棒立ちに。先ほどまでふんわりと巻いていたしっぽは垂れ下がっていく。数分後、鈴木さんが戻ると、ほっとしたように表情が明るくなった。
「秋田犬が忠犬と呼ばれる理由がこの行動に表れている」と鈴木さん。残された間、大河は普段から「だめなこと」と教えられている「ほえる」「飛びかかる」といったことはしなかった。鈴木さんと大河の間に信頼関係がしっかり築かれているのを示しているという。
現在、重点的に取り組んでいるのは犬の移動用ケース「クレート」に入れるようになること。訓練しておくと、普段の移動だけでなく、災害時の避難などにも有効だ。
3月からおやつをクレート内にばらまいて入るように促す訓練をしてきたが、後ろ足を踏ん張って自ら入ろうとはしない。
「今は人間と一緒にいるのが楽しいから、少しでも離れたくないんだと思う。クレートは安全な場所だということを伝え、無理強いせず、犬主導で入れるようになりたい」と鈴木さん。
当面の目標は、秋田市のエリアなかいち内にある常設展示施設「秋田犬ステーション」で“デビュー”すること。多くの人たちと触れ合う日のために、着実に訓練を続けている。