犬は寒さに比較的強い半面、暑いのは苦手だ。汗をかくことがほとんどなく、人間のように体温調節ができないからだ。中でも、大きな体をモフモフとした毛で覆われた秋田犬にとって、夏はつらい季節。ブリーダーや飼い主たちは、暑さを乗り切るためにどんな工夫をしているのだろうか―。
能代市にある秋田犬専門犬舎「能代幸寿荘」。十数匹が暮らす小屋ではこの時季、3台ある大型扇風機が24時間フル稼働している。
ブリーダーの本瀬純一さん(58)は「とにかく日差しを遮り、風通しを良くすることを心掛けている」と話す。
小屋には、西日を防ぐために2種類の遮光シートとよしずが設置されている。記者が訪れた日は、能代市の最高気温が29・9度まで上がり、壁面にある窓は全開となっていた。気温がもっと高い日は、窓のサッシを外して一層風が入りやすくしているという。小屋の周囲に打ち水をしたり、屋根に水をかけたりすることもある。
小屋の内部は、コンクリートの床の上に隙間を空け、すのこ状に木の板が敷かれている。犬たちの足元から風を入れるための工夫だ。
本瀬さんが小屋に入ると、生まれて1年に満たない子犬たちはじゃれついてきたが、ほとんどの犬はケージの中で伏せながら、おとなしく過ごしていた。
「今日はまだしのぎやすい方だが、昨年9月に最高気温が37・7度まで上がった時は大変だった。20キロ入りの氷を7袋買ってきて床にばらまいたものの、1時間ほどで溶けてしまった」と本瀬さんは苦笑いする。
外気を取り入れる一方で、蚊への対策も欠かせない。フィラリアという寄生虫を媒介し、犬の命を脅かすこともあるからだ。小屋の内部や入口では、常に蚊取り線香をたいている。
この時季、本瀬さんは犬たちの食事の量にも気を遣っている。「食が細ると一気に体力が落ちる。おなかを下した時は速やかに整腸剤を与え、しっかりエサを食べさせて夏バテしないよう気を付けている」
秋田市の千秋公園にある「秋田犬ふれあい処(どころ)」でも、秋田犬が入った柵の周辺に扇風機が3台置かれていた。柵の西側には日差しを防ぐためのよしずもあった。
ふれあい処では、秋田犬保存会の会員が飼育する犬を1匹ずつ日替わりで展示している。
木々に囲まれた公園内は街中より涼しく感じられるが、猛暑が予想される日は展示を取りやめる。
6月下旬、愛犬の春花姫(4歳、雌)をふれあい処に連れてきた榎誠祐さん(73)は「この時季は朝は午前5時ごろ、夕方は涼しくなってから散歩している。犬の息づかいを見て、つらそうな時は犬用の経口補水液を与えることもある」と話していた。
大館市の観光交流施設「秋田犬の里」の展示室には十和田石のプレートが敷かれている。ひんやりした石の上で、犬たちが寝そべって体を冷やせるようにと設置した。
実際に、夏場は犬たちのお気に入りの場所となっているという。佐藤和浩館長(63)は「飼い主の中には『こんなに犬が気に入っているなら自宅にも敷きたい』という人もいる」と話す。
ペットショップではこの時季、暑さをしのぐためのグッズが販売されている。秋田市御所野の「ワンラブフレスポ御所野店」では、氷枕やジェルマットなどを目立つ場所に並べていた。
店員によると、アルミプレートや触るとひんやりとした感触のマットが人気だという。