「犬が大好きで何か犬のためにできることはないかと思っています。もし協力できそうなことがあればさせてほしいです」
2月中旬、秋田犬の取材を続ける記者のツイッターアカウントに一通のメッセージが届いた。送り主はサッカーJ2ブラウブリッツ秋田(BB秋田)のDF鈴木準弥選手(25)だ。
新型コロナウイルス下でペットを飼う人が増えている一方、飼育の大変さからすぐに捨ててしまうケースがあると知り、愛犬家の一人として居たたまれない気持ちになったという。
一つでも多くの命を救うためにどんな行動を起こせばいいかを探りたいと、先月25日に秋田市の県動物愛護センター「ワンニャピアあきた」を訪れた鈴木選手。ワンニャピア前所長の金和浩さん(60)、秋田犬の殺処分ゼロを目指す一般社団法人「ワンフォーアキタ」の鈴木明子ドッグトレーナー(59)と3人で意見交換した。
(文・川村巴、撮影・藤岡真希)
鈴木選手 物心ついた頃から生活の中にはずっと犬がいて、自分にとって家族のような存在です。ただ、殺処分や虐待の問題もあると聞いています。Jリーガーの立場になれた今、一匹でも多くの犬を救い一緒に歩んで行けたらなという思いがあります。今年はBB秋田がJ2に上がり、多少なりとも知名度や発信力が上がってきたところです。何か行動を起こせば少しでも現状が変わるきっかけになるのではと思っています。
金さん 30年前は1年間に県内で約4千匹が殺処分されていました。2019年度は91匹の犬がワンニャピアに引き取られ、29匹が殺処分されたり、病気で死んだりしました。
鈴木選手 そういう犬は何でワンニャピアに来るんですかね。
金さん 高齢の飼い主が入院したり、施設に入所したり、あるいは亡くなってしまったりというパターンが多いです。高齢者が犬と一緒に入れるような施設が増えればいいと思います。ほかに、ワンフォーアキタのように犬をトレーニングしてくれる団体があれば、攻撃性の高さによる殺処分を減らせるのかな。秋田県の場合、そういう団体が少なくて。県としても個人で活動してくれるボランティアが増えてくれればなと思っています。
鈴木トレーナー そういう意味では、秋田県は意識がまだ低いのかも知れないね。犬を保護するシェルターがあるのはうちだけなので。
金さん 少ないのには運営資金をどう確保するかっていう問題がある。犬にご飯を食べさせたり、ワクチンを打ったりするためにはお金が必要で、そこへの支援がすごく大切なんじゃないかな。
鈴木選手 クラウドファンディングなどで少しでも物資や資金の協力ができればと思っているところです。すぐにお金を集めるのは難しいかも知れないけれど、余っていたり、捨てようとしていたりするタオルを寄付して下さいという形であれば、やりやすいのかなって。犬はすぐ汚したり、破いたりしちゃうので。
金さん 資金面で募金を集めていただくのは心強い。もう一つは、動物の世話の部分でマンパワーの確保も必要です。
鈴木トレーナー ちなみに、秋田犬1匹につき、人件費込みで毎月10万円ほど掛かります。小型犬はその半分くらいかな。里親へ渡すとなると半年から1年くらいのトレーニングが必要になるので、やっぱり資金面が一番大変だよね。1匹でも多く命を救おうとすれば、お金がないから今助けられないというのが一番嫌だし。そういう意味ではBB秋田の試合の時に募金箱を置いて頂くとかね。そういうのはお願いできたらいいなと思いますね。
鈴木選手 里親の集まり具合はどうですかね?
金さん 犬の場合は結構譲渡が進んでいます。高齢犬の場合でも、時間は掛かりますがもらってくれる人がいます。
鈴木トレーナー 秋田犬はちょっと特別。ワンフォーアキタではこれまで保護した8匹のうち3匹を新たな飼い主へ譲渡した。飼うのが難しい犬種なので、厳しく審査しています。
鈴木選手 里親を募集するときに気軽に来てしまうことも問題だと思うので「秋田犬はこういう特性の犬です」という発信のお手伝いをできれば。あと、迷い犬を探すときに拡散するとか。自分が期待しているのはサッカーと犬のつながり。サポーターが犬に興味を持ったり、愛犬家がサッカーに興味を持ったりというところに広がったらなと思っています。自分を含めたBB秋田の犬好きな選手で、資金や物資の調達、情報発信の手伝いをするところから一緒にやっていきたいです。
鈴木トレーナー 鈴木選手に譲渡会の会場へ特別ゲストで来てもらうとか。単純に選手のファンでも譲渡会の存在を知るきっかけになると思うので、そこから間口を広げていくのもありだと思う。
金さん 人が来ないことには譲渡は進まないですから。人が来て、楽しめる工夫を考えることは大切です。一つ期待したいのは、人見知りな犬を人に慣れるまで育ててくれるボランティアが1人でも2人でもいれば、命を救うことにつながるので、そこも含めて声を掛けて頂けたら。
鈴木トレーナー ボランティア講習に鈴木選手にも参加してもらって、支援の輪を広げていけばいいのかな。
金さん 鈴木選手がJリーガーとして頑張れば頑張るほど発信力が増していく。その発信の中で、ワンニャピアやワンフォーアキタの活動が周知されていけば非常に助かります。なので、J2優勝とか。県民も期待しているので。
鈴木選手 もちろんそこを目指していきます。J2になり、県外からのサポーターも増える中で、道中でワンニャピアに立ち寄れる流れを作れたらなとも思っています。やっぱり、人間と何ら変わらない犬の命を粗末にしてほしくない。1匹でも多く救えたらいいなと思うし、自分の活躍で少しでも犬のために活動していけたらなと思います。
愛犬「ぽてと」に癒やされる日々 いつかは秋田犬も飼いたい
「やっと家に着いてぽてとが出迎えてくれました。癒やされました」「こうしていつもくっついて寝てます。かわいいしかない」
鈴木選手のツイッターには、トイプードル「ぽてと」(雄、1歳)との日々が度々つづられている。もこもことしたぽてとの愛らしい写真の数々に思わず頬が緩む。
鈴木選手がぽてとを迎えたのは1年半前。ペットショップへ立ち寄った際、抱き上げた時のかわいさに心を射抜かれた。妻(25)を説得し、現在は秋田市で妻と生後8カ月の長女、ぽてとと暮らしている。
静岡県沼津市出身で、家族全員犬好き。5歳の頃から柴犬やミニチュアダックスフントといった犬とともに過ごしてきた。「こっちが愛情を注げば注ぐほど向こうも応えてくれる」と犬の魅力を語る。
サッカーで納得のいくプレーができなかった時「ぜんぜんうまくいかないわ」「疲れたな」と家に帰ってぽてとに話しかけると、顔をペロリとなめてくれ、気持ちが和らぐ。落ち込んでいる時も、調子のいい時も、変わらずそばにいてくれるのがうれしいという。寝るときはいつも一緒だ。
だからこそ、不幸な犬のニュースを見ると居たたまれない気持ちになる。「犬はただのペットじゃない。大切な家族です。自分にできることから始めていきたい」
大型犬を飼うのが夢。祖父が秋田犬を飼っていたと言い、「トレーニングがてら、いつか秋田犬と一緒に散歩できたらいいですよね」と笑う。