秋田県大館市のブリーダーから熊本・阿蘇山の麓にある日本文化体験施設に引き取られた秋田犬「ペペケオ」(雄、1歳)が先月中旬、お嫁さんと対面するため1年ぶりに里帰りした。親犬やきょうだい犬たちも勢ぞろいして歓迎し、立派に成長したペペケオと再会を喜び合った。
「ぺぺ、おかえりー!」―。観光交流施設「秋田犬の里」の庭にワゴン車が到着すると、集まった犬の飼い主たちから歓声が上がった。ペペケオを出迎えたのは、レジ打ち動画がSNSで人気の「梅子」(雌、1歳)や、秋田犬の里の看板犬「誉」(雌、2歳)ら約10匹。大半がペペケオを育てたブリーダー・羽沢麻美さん(46)=大館市比内町=の犬舎出身だ。
羽沢さんはペペケオを見るなり「ちょっとー。立派になって…」と感激した様子。うなり声を上げ始めたペペケオに「うんうん、(犬がいっぱいいて)興奮してらな」とほほえむ。大きく成長した我が子を見つめる母のような優しい表情だ。
「おおー、でっかい! おんなじ顔してる」。ペペケオと一緒に生まれた梅子の飼い主・高橋延枝さん(56)=小坂町=は驚きの声を上げた。きょうだいとはいえ、雄のペペケオは雌の梅子より体が大きい。最初のうち、2匹はうなり合っていたが、ペペケオがゆっくりと梅子のにおいを嗅ぐと互いにしっぽを振り始めた。「きょうだいだって分かったのかも」と高橋さん。
ペペケオと梅子の父・扇翠(せんすい)(5歳)と母・白子(しらこ)(4歳)も姿を見せ、家族4匹が1列に並ぶ場面もあった。
白子は、ペペケオに近づくと急にせわしなく動き回った。「(自分の子どもだと)なんとなく察してる」と羽沢さん。
羽沢さんが「見れ、息子だよ!」と扇翠に声を掛けると、ペペケオはアピールするように「ワン」とほえた。
現在、ペペケオが暮らしている「鳴鳳堂阿蘇」(熊本県阿蘇市)は、敷地内に江戸時代の武家屋敷を模した建築物が並び、武道などの日本文化を体験することができる。オーナーは中国人実業家の蘇慶(そけい)さん(52)。「日本文化の一つとして秋田犬を国内外に伝えたい」と、昨年9月から施設内でペペケオを飼育している。
蘇さんによると、ペペケオは客や従業員に愛され、番犬兼看板犬として活躍しているという。故郷から離れた地で1匹でさみしい思いをさせないようにと、お嫁さんとなる犬を大館から迎えることにした。
ひとしきり再会を喜んだ後、羽沢さんはふわふわの白い毛に覆われた子犬を抱えてきた。ペペケオのお嫁さん「モアナ」だ。ハワイの言葉で「海」を意味する。ペペケオもハワイの地名が由来。いずれも、蘇さんがハワイで事業を展開していることからそう名付けた。
「ペペ、見て。ゆっくりだよ、ゆっくり」。羽沢さんが呼び掛けると、ペペケオはおそるおそるモアナのにおいを嗅ぎ始めた。互いに顔を近づけ、鼻と鼻で触れ合うなど、2匹は徐々に仲を深めていった。
鳴鳳堂の従業員で、ペペケオの飼育を担当する増元大志さん(31)は「大館に近づくとペペケオは何かを感じ取っている様子だった。里帰りはこの1年を振り返る素晴らしい機会となった。モアナを迎えることで、ペペケオの阿蘇での暮らしがもっと楽しいものになると思う」と語った。
羽沢さんは「ペペケオが本当に立派になっていて感動した。いつかモアナが出産する日が来たら、熊本まで赤ちゃんを取り上げに行きたいな」と顔をほころばせた。
阿蘇での“新婚生活” 遊ぶときも寝るときも一緒
熊本・阿蘇でペペケオとモアナの“新婚生活”が始まって約1カ月。飼育担当の増元さんによると、2匹は遊ぶときも寝るときも一緒の“良きパートナー”として楽しく過ごしている。
大館で初めて2匹が対面した日のこと。最初のうちペペケオは警戒している様子だったが、モアナが誘うとすぐに一緒に遊び始めたという。夜にはペペケオがモアナにぴったりと寄り添って就寝した。2匹が仲良く眠る様子は、今では鳴鳳堂ですっかりおなじみの光景になった。
阿蘇山を望む鳴鳳堂の敷地内で、2匹が仲むつまじく走り回ったり、おもちゃで遊んだりする様子は、施設を訪れる客や従業員に癒やしを与えている。
モアナが来てからのペペケオについて、増元さんは「落ち着きが出てお兄ちゃんのよう。とにかく優しくて思いやりがある」と話す。
例えば、増元さんが年上のペペケオに先にご飯をあげようとすると、モアナは「私も食べたい!」と言わんばかりにご飯の前にやって来る。増元さんがモアナに順番があることを教えようとする一方、ペペケオは自分が先に食べていいのか迷い、目をきょろきょろさせる。結局、同じ器のご飯を2匹でシェアしたこともあったという。
元気いっぱいで好奇心旺盛なモアナと、温かく見守るペペケオ。2匹は鳴鳳堂の看板犬として、きょうも仲良く愛嬌(あいきょう)を振りまいている。