秋田県大仙市若竹町の今野幸徳さん(46)は今年5月、同市大曲で初開催された秋田犬保存会の本部展を機に、秋田犬の福来(ふく)(雄、4カ月)を飼うことを決めた。福来が家族の一員となって3カ月余りがたち「みんなの笑顔が増え、自分たちを成長させてくれている」と話す。
8月上旬、幸徳さんの自宅を訪ねると、リビングの一角で休んでいた福来が立ち上がり、しっぽをぶんぶん振って出迎えてくれた。
記者が初めて福来を見たのは7月、仙北市で開かれた愛犬家イベントの会場だった。ころころとしてぬいぐるみのようだった体が、たった1カ月で一回り以上大きくなっていた。その反面、こちらを見詰める表情には子犬らしいあどけなさも残る。一瞬で心をぐっとつかまれた。
福来がリラックスした様子で、おなかを上に向けて寝そべると、妻の真寿美さん(47)と長女の幸寿(ゆず)さん(10)、次女の真徳(さな)さん(8)が集まってきた。福来の体をなでてじゃれ合っている。
福来の好きなところを聞くと「表情がころころ変わる」(幸寿さん)、「寝ている時の顔がかわいい」(真徳さん)と即答。2人は食事の支度や散歩など、毎日の世話にも積極的に関わっている。
今野さん一家が福来を飼うことになった直接のきっかけが、5月の本部展だ。幼い頃から犬が好きだった幸徳さんは、大仙市で初めて本部展が開かれるのを知り「絶対に行きたい」と、家族を誘って出かけることにした。
当日は、はやる気持ちを抑えきれず、まずは早朝に一人で会場の下見に行った。そこではたくさんの秋田犬と飼い主たちが審査前の最終調整をしていた。「表情や体の大きさ、毛並みが犬によって全然違う。図鑑を見ているようで、わくわくが止まらなかった」と振り返る。
いったん家に戻り、改めて家族と一緒に会場を訪れた。秋田犬と触れ合ううち「もふもふしていて飼いたくなった」(真徳さん)と、全員がとりこに。幸徳さんは運営本部のテントへ行き、保存会会員に飼育の希望を伝えた。タイミングよく、大仙市内の会員の犬舎で子犬が生まれたばかりだと聞くや、翌日には見学に出向いた。
犬舎にいた5匹の子犬のうち、最初に現れた福来に4人ともが一目ぼれ。他の犬よりも体格が良く、幸寿さんは「子犬でもこんなに大きいのか」と驚いたという。約2週間後に家族として迎え入れることが決まってからも「待ち遠しくて、とにかく時間が長く感じた」(幸徳さん)と話す。
そうして家族になった日。犬舎から今野さん宅へ車で移動する間は割とおとなしく、家にもすんなりとなじんだ。飼育で不安なことがあればその都度、出身犬舎に尋ねて解決するようにしている。
「福来」の名前の由来は「家族に笑顔が増えて幸福が来るように」。犬を飼うことで、わざわざ遠くへ出かけなくても家で過ごす時間がもっと豊かになるのでは、と考えたという。
狙いは当たった。家族総出で福来の初シャンプーに挑戦、自分たちまで泡だらけになったり。4人で食卓を囲んでいる時、先にご飯を食べ終えた福来のうらやましそうな視線に気づいて笑い合ったり。福来を囲んで家族の楽しい思い出が一つ、また一つと増えている。
さらに、子どもたちは動画投稿サイトで秋田犬の世話の仕方などを学ぶようになった。今、幸寿さんの将来の夢はドッグトレーナーだ。「どんな犬でも立派にしつけたい」と話し、覚えたことをノートに書き留めている。娘の変化に、真寿美さんは「成長を感じる」と目を細めた。
福来と過ごして3カ月ほど。「最大限に大きくなった福来に早く会いたい」と幸徳さんが言えば、「小さかった頃がもう懐かしい。顔がイケメンなのはずっと変わらないけどね」と真寿美さん。子どもたちは福来を撮ったたくさんの写真を眺めながら、笑顔で話し続けている。福来はその名の通り、今野家に福をもたらす存在になっている。