秋田県横手市赤坂の菅野均さん(48)=会社員=が家族と共に飼っている虎毛の弦九郎(4歳、雄)は、小柄な体格につぶらな瞳が愛くるしい。家族が更新する弦九郎のインスタグラム(@genkuro_the_akita)は、フォロワー1・4万人を数える人気ぶりだ。多くの人を魅了している弦九郎に会いに行った。
豪雪地帯の横手市。取材した1月上旬は例年より降雪が少なかったが、山や田畑は雪に覆われていた。
菅野さん宅を訪ねると、弦九郎が均さん、妻の真由美さん(50)と一緒に出迎えてくれた。遊んでほしいとでも言いたげな、潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。あまりのかわいさに、会ってからほんの数秒で何でも許してしまいたい気持ちになった。
やがて弦九郎は、ぬいぐるみやボールで遊び始めた。その周りを家族が笑顔で囲む。長女の愛子さん(15)にブラッシングされると、思わず体を預けてうとうと…。長男の正太郎さん(17)、愛子さんが弦九郎とじゃれているのを見るのが、均さんにとって「何よりの幸せ」なのだという。
玄関に置いてあるベビーバスケットは、インスタグラムにも度々登場しているお気に入りの場所。親戚の子どもたちが代々使ってきたもので、弦九郎にとっては少し小さいが、体を丸めてすっぽりと包まれたようにして眠る。
こうした日常をインスタグラムで、弦九郎目線で紹介しているのが真由美さんだ。元々は知り合いに近況を伝えようと始めたが、「弦九郎に憧れて虎毛を飼いました」とコメントが届いたり、海外の愛好家から秋田犬の名付け相談を持ちかけられたりと、思いがけない交流も生まれた。
「いぬがほしい」―。サンタクロースへの手紙に、愛子さんがそう書いているのを均さんが知ったのは10年ほど前のこと。当時はアパート住まいで願いをかなえられず、2019年10月に戸建ての新居に引っ越したのを機に、犬探しを始めた。
約2カ月後、出会いが訪れる。真由美さんが仕事で秋田ふるさと村(横手市)に行くと、秋田犬の展示イベントがたまたま開かれていた。休憩のたび熱心に犬の様子を眺めていると、関係者の男性から「秋田犬を飼ってみないか」と声をかけられた。
「秋田犬は何かの免許を持っているような、特別な人しか飼えない」と思っていた真由美さんは驚いたが、男性は近隣の犬舎で生まれた弦九郎を紹介してくれるという。早速、家族にも話し、翌週には見学に向かった。生後3カ月ほどの弦九郎を抱っこしたら、家族全員が「すぐに連れて帰りたくなっちゃいました」(真由美さん)。こうして12月25日、子どもたちへの“クリスマスプレゼント”として弦九郎が家族に加わった。愛子さんはお小遣いで首輪とリードを買い「もう一生、何もいらない!」と大喜びしたという。
もちろん大変なこともあった。最初の3日間は夜泣きがひどく、一家で睡眠不足になったし、新築のマイホームはあっという間にあちこち、かじられまくり。やんちゃな弦九郎に手を焼いたところに、救いの手を差し伸べてくれたのは、秋田犬を飼っている「師匠」たちだった。
毎週のように様子を見に来ては、的確なアドバイスをくれた。勧められた通り、近所の子どもたちに触れ合ってもらい人慣れさせたところ、人懐っこい性格に育った。真由美さんは「新築だし、最初は家中の傷を補修していたけれど、もうやめました。これも弦九郎が元気に生きている証し。あえてそのままにして、残しておきたいと思って」と語る。
そんな弦九郎は今では、菅野家にとって「いない生活は考えられない」存在だ。真由美さんは「飼う大変さよりかわいさが上回る」、均さんは「ずっと健康で長生きしてほしい」と言って目を細めた。