軽トラックの荷台に乗って畑に遊びに行ったり、川に入って涼んだり。秋田県鹿角市の陸奥(雄、1歳)は、豊かな自然に囲まれた暮らしを満喫している。飼い主の上田将之さん(37)、千里さん(31)夫婦は、陸奥の様子を交流サイト(SNS)で積極的に発信。「癒やされる」と多くの反応が寄せられている。
「陸奥、ルーシー、行きますよ」。先月下旬、夫婦の自宅を訪ねると、千里さんの祖父・児玉兼吉さん(87)が陸奥とチワックスのルーシー(雌、3歳)を抱きかかえ、軽トラックの荷台に乗せるところだった。これから2匹の遊び場でもある畑に向かうのだという。
運転席に兼吉さん、助手席に妻のキミさん(82)が座り、2匹と2人が乗った軽トラックがゆっくりと走り出した。上空から、将之さんがドローンを飛ばして出発のシーンを撮影する。「これがいつもの光景なんです」
畑に到着し、兼吉さんが荷台から降ろすと、陸奥は一目散に木陰へと逃げ込んだ。この日は外に出ただけで汗が噴き出すような蒸し暑さ。兼吉さんも陸奥の隣に座り、「暑いなー」と話しかける。
畑の脇に作業小屋があり、千里さんとキミさんはみんなで座れるようにと、椅子やプラスチック製のサイダーのケースを並べてくれた。小屋の中は日差しが遮られるので涼しく感じる。ルーシーを抱っこして座ったキミさんは「2匹とも、かわい過ぎるよね」とほほ笑んだ。
さらに涼を求めて、今度は陸奥の大好きな川へ行くことになった。当の陸奥は暑さのせいで、全く歩きたがらないため、数百メートルの距離を軽トラックで移動。人間の膝丈ほどの草をかき分けるように進むと、川の浅瀬にたどり着いた。
陸奥はためらうことなく川の中へ。顔を水中にくぐらせたり、体を大きく震わせて水を払ったり…。さっそうと動き回る姿は、まるでここにすむ“主”のよう。りりしく、どのシーンも絵になる。
リードを引いていた千里さんは近くからスマートフォンで、将之さんはドローンを飛ばして上空から、川で遊ぶ陸奥の様子を思い思いに撮影。この日のインスタグラムには「川まで送迎のVIP待遇です」とコメントを添え、動画を投稿した。
昨年1月、夫婦は鹿角市にある千里さんの実家に住むことになった。自然豊かな住環境が整ったことを機に、千里さんは「昔から好きだった秋田犬を飼いたい」と、知り合いを通じて候補犬を探し始めた。
紹介された大仙市の犬舎へ向かうと、生後1カ月ほどの5匹がいた。相性を見ようと、先に飼っていたルーシーと対面させた時、唯一近づいてきたのが陸奥だった。家族として迎え入れてからも「2匹は程よい距離感で、うまく共同生活をしています」と千里さん。
陸奥を飼い始めると同時に、SNSでの発信をスタートさせた。インスタグラム、X(旧ツイッター)、TikTok(ティックトック)にそれぞれアカウントを開設し、投稿を続けている。
テーマにしているのは「癒やし」だ。畑や田んぼのあぜ道を思いきり走って土だらけになる陸奥。水を張った大きなタライに陸奥が入り、兼吉さんがじょうろで水をかけながら「暑いからこうなんだなあ」と話しかけるシーン。のどかな田園風景の中で繰り広げられる、陸奥と家族のほのぼのとしたやりとりに、見ている人からは「心がほっこりする」「癒される」とコメントが寄せられている。
今年5月には、秋田犬保存会(大館市)の第149回本部展に初めて出陳。出身の犬舎からは「首回りの毛色の模様で入賞は難しいだろう」と言われていたが、若犬の雄部門で堂々の3席に入った。
当日はハンドラーを務めた将之さん。本部展に向けては「前日に慌ててシャンプーしたくらい」(千里さん)で、、それ以上特段の準備はしなかったのだという。普段から人慣れしていることもあり、会場でも堂々とした立ち姿と態度を披露、評価を得た。
大館市観光交流施設「秋田犬の里」での展示にも参加している。上田さん夫婦は「秋田犬は観光面で人気のコンテンツだが、一方で頭数やブリーダーの減少など、さまざまな課題も抱えている。秋田犬の本場・大館市や周辺地域の発展のためにも、自分たちが陸奥の話題を発信することで、秋田犬を飼う人や、秋田犬に会いに来てくれる人が増えてくれればうれしい」と話した。