飼い主の家族にかみついてけがをさせる事故を起こした秋田犬の矯正トレーニングに、秋田犬の殺処分ゼロを目指す一般社団法人「ワンフォーアキタ」のチーフドッグトレーナー、鈴木明子さん(59)=秋田市=が取り組む。別の飼い主への譲渡をゴールに据えたトレーニングは、月内にも始まる。正しいしつけの必要性を訴える鈴木さんに話を聞いた。
―秋田犬を飼う上での注意点を教えてほしい。
「まず理解してほしいのはこの犬種の特性だ。秋田犬には飼い主以外にあまり懐かない『ワンオーナードッグ』といわれる性質がある。誰に従わなければならないかを判断できる犬という言い方もできる。飼い主にとっては、犬に主従関係をしっかり植え付けることが大事だ。しつけをできない人、愛玩動物としてしか考えていない人はまずやめた方がいい」
「秋田犬は成長のスピードが速いので、服従させるまでの期間の目安は、体が大きくなる生後3カ月と考えてほしい。幼犬時代の秋田犬は本当にかわいいので、つい甘やかしがちになるが、やはり最初が肝心だ」
「盛岡市の60代の男性から秋田犬を譲渡してほしいという依頼を受け、断ったことがある。犬を飼いたいという理由の一つが『妻に先立たれて寂しい』というものだった。寂しさを紛らわすために犬を飼うというのは違うと思う。そもそも犬は人間に従う動物で、人間が犬に依存するというのはどうかと思う。現実問題として飼い始める年齢も大事になる」
―しつけのポイントは。
「人に対してやってはいけないことや、人と生活していく上でのルールを守らせることだ。犬にすればじゃれているつもりでも、体が大きい分、飛びついただけで人にけがをさせることもある。散歩中に他の犬に威嚇され、今にも応戦しそうな状況を想像してほしい。どんなに興奮していても、飼い主の『待て』の命令で冷静さを取り戻せるぐらいになれば、しつけは成功と言える」
「犬の性格を把握することも重要だ。気の小さい子にむやみに怒ったりすると信頼関係を築くのが難しくなる。犬との生活の中で不安も出てくるだろうから、そんなときは専門の訓練士などに相談した方がいい。悪い状態で放置しないでほしい」
―他に重要なことは。
「特定の誰かがということではなく、家族全員で飼ってほしいということ。飼い主が病気で長期入院し、犬を飼い続けることができなくなったという話はよく聞く。まさに秋田犬の『ワンオーナードッグ』たるゆえんだが、他の家族も普段から散歩などの世話をしていないと飼育の継続は難しくなる。家族でその点もしっかり話し合ってもらいたい」
―矯正トレーニングはどういうプログラムになるのか。
「トレーナーが犬に自分の存在を認めてもらうことが最初のステップになる。犬舎の柵越しから自分を観察させ、うなったり牙をむいたりすることがなくなったのを確認して初めて声を掛ける。何日かかるか何週間かかるかは犬次第。犬舎に入るのが次のステップだ。ただ犬が近寄ってくるまではこちらから接近しない。犬舎はあくまで犬のテリトリー。そばに寄ってきて匂いをかいだりしてくれたらこっちのもの。体に触れられるようになれば、首輪とリードを付けさせてくれるだろうし、散歩もしてくれるだろう。知らない人や犬のいる所に連れて行って、そこできちんとできるようになれば、ようやく譲渡できるレベルになる」
―改めて秋田犬の魅力は。
「さまざまな犬種を見てきたが、秋田犬ほど頭のいい犬はいないと思う。飼い主に対して、ひたむきでいちず。本当にたまらなくなる。人間の感情にも敏感。どんな生き物でも飼うに当たっては相応の覚悟と知識が必要だが、その上でぜひ秋田犬を飼うことを検討してみてほしい。家族の一員として迎え入れようという人の輪が広がってくれれば、こんなにうれしいことはない」