秋田県男鹿市船川港の松橋亨さん(64)、明子さん(59)夫婦は長毛秋田犬「ばんたろう」(雄、11歳)と暮らしている。飼い主ですらほえるのをほとんど聞いたことがない、とてもおとなしい犬だ。番犬には全く向いていないが、一家の絆を強めてくれた癒やし系の秋田犬である。
ばんたろうのお決まりの散歩コースには船川第一小学校があり、下校中の児童と触れ合うこともある。今月11日に記者が散歩に同行した際も、児童たちが次々と駆け寄ってきた。
「かわいい」
「モフモフしている」
「大きいなあ」
児童たちが頭や体をなでると、ばんたろうは気持ちよさそうな顔をしていた。
ばんたろうが松橋家の一員となったのは2010年。ある日明子さんが「大型でモフモフとした犬に癒やされたい」と直感的に思ったのがきっかけ。亨さんも「大型犬は穏やかな犬が多いと聞いた」と賛同した。
ところが、思うような犬はなかなか見つからなかった。ペットショップやブリーダーの元を訪れたり、ネットで情報を集めたりするうち、犬を複数飼っていた県内のある家で長毛秋田犬に出合い、譲り受けることになった。
「秋田犬にこだわっていたわけではないが、一目ぼれした」と明子さん。亨さんも「初対面の時に、ばんたろうの方から近づいてくれたことがうれしかった」と振り返る。
飼い始めた年を忘れないように、この年行われたバンクーバー冬季五輪の「バン」を入れて「ばんたろう」と名付けた。
ばんたろうが松橋家にやってきた当時、長女は短大生で長男は高校生だった。子供たちが成長するにつれ、家族の会話は減りがちだったというが、二人とも積極的にばんたろうを世話してくれた。
「ばんたろうが家族の話題の中心となり、わが家は救われた」と明子さんは話す。
現在、子供たちは独立して家を離れたが、無料通信アプリ「LINE(ライン)」でばんたろうの近況について頻繁にやりとりしている。亨さんは「ばんたろうと散歩していると、『顔がそっくりですね』と言われることがある」とうれしそうに話す。
ばんたろうはほえることがまずなかったので、明子さんは飼い始めた当初、何か障害でもあるのかと思っていたという。
「元気に散歩しているし、餌もちゃんと食べているので、たとえ障害があったとしてもそれはそれで構わないと考えていた。夫から、ばんたろうが初めてほえていたことを聞かされた時は驚いた」
夫婦は、ばんたろうを連れて県内各地に足を運び、撮影した写真を「インスタグラム」に投稿している。各地の風景の中で、ばんたろうが見せるさまざまな表情が魅力的だ。
おとなしいとはいえ大型犬である。体重は約50キロ。飼う前には、秋田市で開かれていた犬のしつけ教室に何度も足を運んだという。
「犬はじゃれようとしているつもりでも、人にのりかかろうとして、驚かせて転ばせてしまうことがあるかもしれない。犬と幸せな生活を送るためにも、しつけだけはしっかりしないといけない」と明子さんは強調した。