【寄稿】秋田犬を生かした地域振興策 国際教養大アジア地域研究連携機構・名越特任教授に聞く

  • 2021-01-15
  • 2021-01-20
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 「秋田犬の里」(大館市)のアドバイザー委員で国際教養大学アジア地域研究連携機構の名越健郎特任教授(現代ロシア論)に、秋田犬を生かした地域振興策について寄稿してもらった。

19年5月、JR大館駅近くに開館した「秋田犬の里」。施設周辺の整備も進む

 一昨年5月にオープンした「秋田犬の里」は、新型コロナウイルスの感染拡大で臨時休館した昨年3月までの10カ月間で30万人の来館者を集め、抜群の話題性と集客力を示した。

 コロナ禍が打撃となったものの、施設周辺ではこの間、「青ガエル」の愛称で親しまれてきた鉄道車両がJR渋谷駅前(東京・渋谷区)から移設されて全国ニュースになったり、秋田犬と大館市の魅力を国内外に伝える「秋田犬ふれあい隊」の活動が話題になったりした。

 筆者は昨年10月に施設を再訪したが、以前に増して館内がカラフルになり、若いスタッフの明るい対応にも好感が持てた。10億円ほどの予算でこれだけの効果があった公共施設は例がない。福原淳嗣市長以下、大館市のアイデアの勝利だ。

 新しい観光施設の運営には、常に新しい話題を発信していく姿勢が欠かせない。県内でも秋田犬に触れ合える場所が増え、県全体が「秋田犬の里」と化してきた。本稿では、コロナ後を見据えながら、秋田犬を国内外にアピールするための提言をしたい。

 「秋田犬の里」の周辺には「青ガエル」に加え、手こぎトロッコで線路上を走ることができる鉄道パークが昨年7月に設置された。「秋田犬の里」は通過型の観光施設ながら、周辺の整備が滞在時間延長の鍵となる。

 年末のロイター電によると、コロナ禍による巣ごもり需要で、空前のペットブームが世界的に起きており、各国で犬や猫の価格が高騰している。米国の調査では、ペット保有者の72%が「ペットなしにコロナ禍を乗り切れない」と答えたという。社会的ストレスが人と犬や猫との距離を近づけており、忠誠心が売りの秋田犬人気は一段と高まりそうだ。

 とはいえ、日本の住宅事情を考えると、大型犬の飼育数が伸びるとは思えない。ペットブームに乗じ、秋田犬を「伝説の犬」として希少価値を売り込むべきだろう。

コロナ禍以前の「秋田犬の里」館内。大勢の観光客でにぎわっていた=20年1月

 今年は大館がロケ地となった日露合作映画「ハチとパルマの物語」が公開される。主人公の忠犬はシェパードながら、秋田犬も登場する。

 飼い主のパイロットを滑走路で待ち続けた「パルマ」の実話は、旧ソ連時代にも映画化されており、人と犬の交流はドラマになりやすい。戦前の「ハチ公物語」は秋田犬の魅力を世界中に発信したが、やや古い印象がある。台湾やタイなど秋田犬人気の高い国・地域を意識しながら、新しい時代のドラマづくりを進めたらどうか。

 イタリアやロシアの秋田犬飼育数は日本を上回ると言われる。秋田を秋田犬の聖地とするため、秋田犬が海外でどれだけ愛され、飼育の実態はどうかなどを把握すべきだろう。国際教養大などの学生の協力を得て、ネット検索でも一定の情報収集は可能だ。

 秋田犬保存会の遠藤敬会長(衆院議員)は「『秋田犬の里』の人気に押されて秋田犬会館(大館市)への関心が薄れた」とこぼしていたが、保存会と行政の緊密な連携が不可欠だ。

 保存会は全国組織であり、海外約20カ所に支部を持つ。保存会の現有体制では秋田犬の急激な国際化に対応するのは難しい。資金や人材面を含め、県や市の全面的なバックアップが望ましい。

 遠藤会長は菅義偉首相とも近い。菅首相は官房長官時代、都内での保存会全国展前夜祭に出席し、「学生時代、下宿先の主人が秋田犬を飼っており、勇気づけられた」と秋田犬への熱い思いを語っていた。

 安倍晋三前首相の実弟、岸信夫防衛相は柴犬などの普及を図る日本犬保存会会長であり、日本犬の発展で遠藤氏と連携している。菅政権が掲げる「ソフトパワー外交」の一角に秋田犬を据えるよう働き掛けてもいい。

 魅力の多い秋田犬は今後、さらに人気が高まるだろう。問い合わせも増えるはずで、情報を集約するため、県庁と大館市役所に「秋田犬課」を設置してはどうか。それだけで全国ニュースとなり、意気込みを発信できる。ソフトブランドの普及には相応のスタッフも必要になる。

 【なごし・けんろう】53年、岡山県生まれ。東京外大ロシア語科卒。76年時事通信社入社。ワシントン支局長、モスクワ支局長、外信部長、仙台支社長を歴任し11年退社。12年から現職。「秋田犬の里」のアドバイザー委員。著書は「独裁者プーチン」「ジョークで読む国際政治」「秘密資金の戦後政党史」など。67歳。

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わんこがつなぐ世界と秋田

モフモフした毛並みに、つぶらな瞳、くるりと丸まった愛らしいしっぽ。たくましい身体を持ち、飼い主に忠実な性格でも知られる秋田犬は、今や世界中の人気者です。海外での飼育頭数は増え続け、本場の秋田では観光振興に生かそうという動きも活発化してきました。秋田魁新報は「秋田犬新聞」と題し、国内外のさまざまな情報を発信していきます。秋田犬を通して世界と秋田をつなぐ―。そんなメディアを目指していきます。

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