動画投稿サイト「ユーチューブ」で秋田犬のユーモラスな姿を配信している「秋田犬げんき」のチャンネルが人気だ。中には再生回数が2800万回を超える動画もある。運営しているのは秋田市飯島の保坂秀幸さん(57)=自営業。人気の理由について「犬のありのままの姿を見せているのが好評なようだ」と語る。
保坂さんは2005年12月、都内の企業を辞め秋田市の実家にUターンしたのを機に「げんき」という名の秋田犬を飼い始めた。父が亡くなり、実家に母のトヨ子さんを一人にしておくのが心配だったという。
「ちょうどいいタイミングだったので、以前から興味のあった秋田犬を飼うことにした」
飼う以上は、秋田犬についてのきちんとした知識を持ちたいと、図書館に通いさまざまな本から情報を得た。秋田犬の魅力を多くの人に知ってもらおうと、07年には「真っ白秋田犬げんき」というウェブサイトを立ち上げた。しつけや病気に関することなど、秋田犬を飼う上で役立つ情報を盛り込んだ。
併設したブログでげんきの日常を紹介したところ、読者から動いている姿も見てみたいという声が多く寄せられ、08年からユーチューブへの動画投稿も始めた。
ユーチューブで人気を集めたのは、げんきとトヨ子さんの仲むつまじい姿。
「最初は家族の姿を映さないようにしていたが、うっかり母親が映り込んでしまった。そしたら再生回数は急激に伸びた」
それ以降、トヨ子さんが登場する回数を増やし、げんきと一緒に過ごす様子が評判となっていった。
トヨ子さんは16年9月、83歳で亡くなった。げんきも同年冬に歩くことができなくなり、17年2月にトヨ子さんの後を追うように息を引き取った。保坂さんは「母は亡くなる1カ月前に入院したが、その時にはげんきも急に元気がなくなった。げんきが死んだ時の喪失感は、母を亡くした時と同じぐらいの大きさだった」と振り返る。
その後、しばらくは再び犬を飼う気になれずにいたが、動画のファンの仲介もあり、18年1月に生後3カ月の秋田犬「ゆうき」を迎え入れた。
ゆうきもげんきと同じ白毛だが、成長するにつれて背中に赤毛が目立つようになってきた。「げんきは本当に真っ白だったが、皮膚が弱くて大変だった。ゆうきはそうしたトラブルがなく、手が掛からない」と保坂さん。
現在、ゆうきは朝夕の散歩以外は、ほとんどの時間をクーラーの効いた部屋で過ごしている。週2回のペースで公開している動画も、散歩や部屋での様子など、日常の姿をとらえたものが多い。
「以前は、もっと面白いものを撮ろうと公園や海に連れて行ったこともあったが、そうしたものは再生回数が伸びなかった。変に作ったものより、ありのままの姿の方が面白がってもらえる。今は特別なことはしていない」
保坂さんは現在1人暮らし。「秋田犬を飼うのは、ゆうきが最後になるだろう。私に何かあれば、静岡に住む姉を頼ることになると思うが、暑さに弱い秋田犬には酷だろう」
できるだけ長くゆうきの世話ができるように、大好きだったお酒をやめ、趣味の大型バイクも手放した。
「ゆうきに生涯を全うさせてあげたい」。保坂さんの一番の願いである。
一番人気は再生回数2800万回超 家族との絡みが絶妙
ユーチューブのチャンネル「秋田犬げんき」で公開された約700本の動画の中で、再生回数が2800万回超と最も多いのは、ゆうきと保坂さんの姉とめいが登場する回(2018年8月9日)だ。
タイトルは「お婆さんのDNAを受け継ぐお姉さんはやはり面白い」。疲れて休んでいたところをゆうきに邪魔されて困惑するめい、ゆうきを落ち着かせようと悪戦苦闘する姉が入り乱れ、ユーモラスな雰囲気を醸し出している。
ゆうきが姉に口を押さえられた瞬間に時計の鐘が鳴り、まるで“試合終了”を告げるゴングのよう。
コメント欄には「30回はみてます」という書き込みも。ついつい何度も見たくなる人が多いようだ。
「無言の圧力でおねだりをする」(15年1月2日)の再生回数は348万回超。
トヨ子さんが食べているお雑煮に、げんきは興味津々な様子で顔を近づける。しかし、おわんの中にはげんきが食べられるような具材は残っていない。「失敗したなあ」と苦笑いするトヨ子さん、しょんぼりするげんき―というものだ。
「犬もかわいいけど、おばあさんもかわいい」といったコメントが寄せられている。