新潟県長岡市で「小林酒店」を営む小林豊さん(59)が飼う秋田犬・優美(ゆうみ、雌、2歳)は、台車を押す姿を捉えた動画がきっかけで人気者になった。「優美を看板犬にしようとは思っていなかったが、気が付いたら看板犬に育っていた」と小林さんは話す。
優美は普段、店内の壁に囲まれた空間で静かに過ごしている。「犬が嫌いという人もいるだろうから、普段はお客さんに姿を見せていない」と小林さん。
客から「秋田犬はどこにいるのですか?」と聞かれたり、「優美ちゃんに会いたい」と頼まれたりしたとき、ようやく優美の看板犬としての仕事が始まる。
優美はとても温厚で、初対面の人に対してもフレンドリーだ。ほえることもあまりなく、カメラを向けるとすぐにリラックスした姿を見せてくれる。
店内には、畳を敷いて大きな傘を立てた、茶会の会場のような一角がある。優美が畳に上がった姿を写真に撮りたがる客も多く、SNS映えするスポットとして評判になっている。
「秋田犬は体が大きく、かむ力がとても強いので、万が一にもお客さんを傷つけてはならないと、しつけだけはしっかりしてきた。こんなに人を警戒しないように育ったのは、多くのお客さんにかわいがってもらったからだろうな」と小林さん。
店を訪れる子どもたちには「こうやって触ってもいいのは優美だけだよ。他の秋田犬には絶対に手を出しちゃだめだよ」と注意するのも忘れない。
小林さんは1935年から続く店の3代目。父は狩猟が趣味でジャーマン・ポインターやイングリッシュ・セターなどの大型犬を飼っていたが、小林さん自身は犬を飼おうと思ったことはなかったという。
2020年夏、小林さんに、父親の代からの常連客を通して秋田犬の子犬を引き取ってほしいという依頼が舞い込んだ。
「子犬の姿を見てかわいらしいとは思ったが、断り切れずに飼い始めたというのが正直なところ」と振り返る。優美という名前は「インスピレーションで決めた。音の響きが心地よかっただけで深い意味はない」という。
優美の人気が爆発するきっかけとなったのは、店の台車を押している姿を捉えたツイッターの動画だ。子犬が一生懸命に店の手伝いをしているように見え、反響は大きかった。再生回数は50万回を超え、テレビなどから取材依頼が殺到。全国から秋田犬ファンが店を訪れ、誕生日には優美ファンから手紙やプレゼントが数多く届くようになった。
小林さんは日頃から優美の多彩な表情を小まめにSNSにアップしている。唐草模様の風呂敷を背負った優美を酒の配達に同行させるなど、小林さんのユーモアのセンスも秋田犬ファンの心をつかんでいる理由の一つだろう。
小林さん自身は「優美をかわいがってくれることはうれしいが、秋田犬を見ようとこんなに多くの人が遠方から足を運んでくれるのは正直不思議だ」とも話す。
店の看板犬として優美を今後どうしたいかと聞いてみたところ、小林さんは「特に何もない」ときっぱり。「とにかく健康で元気にいてくれればそれでいい」。
小林さんに見守られ、優美はこれからもマイペースで穏やかな日々を過ごしていくことになりそうだ。