心も体もぽかぽかに チワワと2大看板犬の大雅

 冬の寒さがますます厳しくなるこの季節に、恋しくなるのが温泉だ。秋田県大仙市協和船岡の温泉旅館「東兵衛温泉 からまつ山荘」には、秋田犬とチワワの2匹の看板犬がいる。体の大きさは違っても、2匹は大の仲良し。源泉掛け流しのお湯と、犬たちのおもてなしで体だけでなく心までぽかぽかになる。

ロビー前で客を出迎える大雅(左)とジョン

 記者が取材に訪れたのは1月中旬。気温が上昇し、県内沿岸部は雪解けが進んでいたが、山あいにある旅館の周辺は雪が残っていた。

 到着してしばらく待っていると、秋田犬の「大雅(たいが)」(雄、5歳)と湯守の竹村良司さん(72)が朝の散歩から帰ってきた。協和ダム付近の広場で約30分全力で走り回るのが日課という。大雅は雪上を走ったためか、脚や尻尾がしっとりとぬれていた。

 「体を洗いに行こう」。大雅は竹村さんに連れられ、旅館の赤いカーペットが敷かれた階段を降りていく。その先は温泉だ。気付けば、留守番していたチワワの「ジョン」(雄、9歳)も、小さな体を一生懸命揺らして大雅の後を追ってきた。

散歩後にお湯を浴びる大雅

 湯気がもくもくと立ちこめる中、竹村さんがシャワーから出る温泉で大雅の脚を丁寧に洗う。「次は後ろだよ」と声を掛けられると素直に脚を預け、気持ちよさそうな顔をしている。

 自分の番を待っていたジョンも、同じように脚を洗ってもらう。「これがからまつ山荘、毎朝おなじみの光景なんです」

散歩後のお風呂で顔を拭いてもらう大雅

 お風呂を済ませた2匹は旅館のロビー前に寝そべり、客の到着を待つ。うとうとしていても、車のエンジン音や足音が聞こえるたびに立ち上がる。

 大雅はなでてもらうのが大好きで、自ら客の元へ駆け寄っていく。冬は近くの協和スキー場の利用客が立ち寄ることも多く、お出迎えに大忙しだ。

 小さな子どもが遊びに来ると自ら頭を下げてなでやすくしたり、カメラを構える人の前でビシッとポーズを決めたり。訪れる客ごとに、かわいがってもらうすべを知っているようだ。

 「こんなに人が好きな秋田犬も珍しいんじゃないかな」

大雅が来たことで「従業員やお客さんに笑顔が増えました」と話す竹村さん(右)

 大雅が旅館にやって来たのは2018年4月。「秋田犬がいれば観光客に喜んでもらえるのではないか」と考え、大館市出身の竹村さんが同市内の犬舎から知り合いを通じて譲り受けた。ロシアのプーチン大統領に贈られた「ゆめ」の弟にあたる。

 元から旅館で暮らしていたジョンは、生後3カ月なのに自分より大きい大雅にたじろぎ、最初はあまり近寄ろうとしなかったという。1年ほどかけて徐々に仲良くなり、今では2匹一緒が当たり前だ。

2匹はたまにけんかもするが、すぐに仲直り

 ジョンは人にほえる癖があったが、人懐っこい大雅と過ごすうちに、あまりほえないようになったという。寒さが苦手なジョンにとって、大雅は“湯たんぽ”のような存在。寝るときは大雅の頭や脚にくっついている。

“湯たんぽ”代わりの大雅にくっつくジョン(前方)

 大小2匹の犬が仲むつまじくしているのを見ると心が温まる。旅館のツイッターには毎朝、温泉や旅館の話題と共に2匹の写真が投稿される。スタッフが「山奥にある旅館と看板犬を多くの人に知ってほしい」と情報発信している。今では県外から2匹を目当てに訪れるファンも増えてきた。

 竹村さんは「大雅とジョンが秋田や旅館を訪れるきっかけになればうれしい」と目を細めていた。

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わんこがつなぐ世界と秋田

モフモフした毛並みに、つぶらな瞳、くるりと丸まった愛らしいしっぽ。たくましい身体を持ち、飼い主に忠実な性格でも知られる秋田犬は、今や世界中の人気者です。海外での飼育頭数は増え続け、本場の秋田では観光振興に生かそうという動きも活発化してきました。秋田魁新報は「秋田犬新聞」と題し、国内外のさまざまな情報を発信していきます。秋田犬を通して世界と秋田をつなぐ―。そんなメディアを目指していきます。

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