親子が出迎える温かな宿 大館市「ふるさわおんせん」

  • 2023-06-15
  • 2023-06-15
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 秋田県大館市字新綱にある「ふるさわおんせん」は、秋田犬の親子が出迎えてくれる温泉宿だ。スタッフと会話しながら母の温(はる)(6歳)・娘の華(5歳)と触れ合い、ゆっくり温泉や料理を楽しむと、実家にでも帰ってきたかのような居心地の良さを感じる。

 2匹は宿の玄関を開けてすぐ、受付ロビー周辺の柵内で過ごすことが多い。休憩などで外に出ている時間もあるため、事前に電話で確認しておくのがお勧めだ。

 「温ちゃんと華ちゃんに会いたくて来ました」。6月上旬、2匹を目当てに神奈川県から50代の夫婦が訪れた。

 宿では2匹との記念撮影も可能だが、撮影前に独特の段取りがある。この日も2匹は、初対面の夫婦に近づくと、手や服のにおいをゆっくりと嗅いだ。警戒心を解くための大事なルーティンだという。

 撮影が済むと、夫婦はスタッフから普段の様子などを熱心に聞き、「会えてうれしかったです」と笑顔を見せた。

ふるさわおんせんの看板犬、母の温(右)と娘の華

 宿の小林薫社長(48)によると、温の性格は「パワフル母ちゃん」。子を守ろうとする責任感と母性が強い。一方の華は「言葉が分かる、人間のような犬」。客が「あれ、華ちゃん太った?」と声をかけると、おやつを食べるのをピタッと止めたこともあったとか。名前はそれぞれ、温泉と湯華(湯の花)に由来する。

取材中に見せてくれた、股関節が柔らかい華ならではのポーズ

 今では秋田犬ファンに知られた存在の宿だが、初めから順風満帆だったわけではない。

 ふるさわおんせんを営む父と母の下に生まれた4姉妹の末っ子で、幼い頃から食べることが大好きだったという小林社長。将来は宿の調理部門を手伝いたいと、専門学校で調理師の免許を取得した。

 卒業後は県外のホテルで4年ほど修行し、1998年に帰郷。父から宿の経営を学んでいこうとした矢先、その父が心臓病で急死する。小林社長が実家に戻ってわずか2週間後だった。

 ショックと不安で押しつぶされそうになる中、父を知る人たちの激励や、母と姉の佐々木桂さん(52)=の協力もあり、家族力を合わせて宿を守っていくと決めた。

宿の前に立つ小林社長と温(左)、佐々木さんと華

 初めは父と付き合いのあった人が利用してくれたものの、客足は次第に途絶えがちに。そんな時、常連客の一人から「大館は忠犬ハチ公の古里なのに、秋田犬に会える場所があまりない。飼ってみたらどうか」と助言を受けた。

 秋田犬保存会(本部・大館市)の会員に相談し、紹介されて譲り受けたのが温だ。外を元気いっぱいに走り回る様子に、佐々木さんは一目ぼれした。小林社長は「こんなやんちゃな子、育てられるかしら」と悩んだが、「年を重ねればおとなしくなる」という会員の言葉にも背中を押され、看板犬として迎え入れた。

 2018年には温が6匹を出産。華だけを親元に残し、他の5匹はほどなく県内外に引き取られた。小林社長は「温が子どもの数を数えて足りないことに気付き、不思議そうに首をかしげていた」と振り返る。

母の温(左)と娘の華

 看板犬となった秋田犬の母と娘はメディアで取り上げられ、「秋田犬に会える宿」として話題をさらう。海外から訪れる客も増え、行楽期には満室となる状態が続いた。ところが今度は、新型コロナウイルスの感染が急拡大して利用が激減。老朽化した建物の修繕も重なり、再び窮地に立たされた。

 救ってくれたのは全国のファンだった。「父から受け継いだ宿を守りたい」とクラウドファンディングで支援を呼びかけたところ、目標を上回る390万円余りが寄せられた。「コロナが明けたら必ず会いに行きます」という温かい言葉にも力をもらった。現在、客足はコロナ禍前の水準に戻りつつあるという。

日々忙しく過ごす小林社長(左)と姉の佐々木さんだが、合間に2匹と触れ合うことも大切にしている

 「お客さんは2匹を家族のように思ってくれている。誰かの心の支えになっている犬たちなんだと感じる」と小林社長。2匹と、そのファンと共に苦境を乗り越えたふるさわおんせんは、利用客の気持ちを解きほぐす宿として愛されている。

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わんこがつなぐ世界と秋田

モフモフした毛並みに、つぶらな瞳、くるりと丸まった愛らしいしっぽ。たくましい身体を持ち、飼い主に忠実な性格でも知られる秋田犬は、今や世界中の人気者です。海外での飼育頭数は増え続け、本場の秋田では観光振興に生かそうという動きも活発化してきました。秋田魁新報は「秋田犬新聞」と題し、国内外のさまざまな情報を発信していきます。秋田犬を通して世界と秋田をつなぐ―。そんなメディアを目指していきます。

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