秋田犬を通じて日本に希望や癒やしを―。そんな思いを胸に、秋田市飯島の英語塾講師・布施美和さん(57)は雌の「J-HOPE」(通称ジェイ、2歳)を家族に迎えた。男鹿市の道の駅おが「オガーレ」にある「秋田犬ふれあい処(どころ)」では月2回ほど、展示犬として活躍している。
日本(JAPAN)に希望(HOPE)と、癒やしを届けたいと名付けたJ-HOPE。布施さんが好きな韓国の人気音楽グループBTSのメンバー・ジェイホープや、恩師のイニシャルにもかけている。
今月10日、秋田犬ふれあい処の展示にジェイが登場した。柵の格子からすっぽりと顔だけを出してポーズを取ると、見学者が「かわいい」「しっぽがふわふわだね」と笑顔で写真を撮っていた。布施さんは「このポーズが得意みたい。みんなが喜んでくれると分かっているのかも」と話した。
ふれあい処以外に、クルーズ船が寄港した際は秋田港で下船してくる観光客を出迎え、交流を楽しむこともある。
ある時は千秋公園を散策していたところ、外国人男性からジェスチャーで「ジェイの写真を撮ってもいいか」と尋ねられた。布施さんが英語で「大丈夫」と返すと、その男性は「耳が聞こえない」というポーズをした。一連の流れを見て何かを感じ取ったのか、ジェイはその男性の耳にそっとキスをした。男性は涙ぐんで喜んでくれたという。
布施さんは元々、大の犬好きで実家では子どもの頃から切れ目なく犬を飼っていた。中でも「何ともいえない癒やしを感じる」という秋田犬に憧れを持っていたが、夫(59)は犬が苦手。そのため結婚後は家で飼う代わりに、県内各地のイベント情報をチェックしては足を運び、秋田犬と触れ合ってきた。
2022年2月、能代市の犬舎で子犬が生まれたことを交流サイト(SNS)で知り、布施さんは見学を申し込んだ。飼うつもりはなくても、見たら欲しくなってしまうのでは…。長女(28)と次女(25)が“ブレーキ役”で同行することになった。
見せてもらった5匹の子犬のうち、譲渡先が決まっていない1匹と目が合った。その瞬間、「連れて行ってと言われた気がした」布施さんは、飼う許可をもらおうとその場で夫に電話を入れた。娘2人もいつの間にか“アクセル役”に回り、撮ったばかりのジェイの写真を送信した。熱意に押された夫は「(飼うことを)もう決めているんでしょ?」と一言。意外なほどすんなり、OKが出た。
犬が苦手なはずの夫だったが、家族と一緒に帰宅したジェイの愛らしい様子に、目尻を下げて「ようこそ!」と歓迎したという。今では家族全員にとって最大の癒やし。実家を離れて山形県で暮らす次女も、ジェイに会うため月1回ほど帰省している。
一方、苦労しているのがしつけだ。生後6カ月ほどから、散歩中に車や他の犬を見ると怖がって布施さんをかむ癖が出てきた。困った布施さんはまず、秋田市内のドッグトレーナーに相談した。
「秋田犬を飼う覚悟ができていない」と指摘され、しつけの重要性を再確認。とはいえ、罰を与えるような方法ではジェイがおびえてしまい、自分も疲弊する悪循環になると考えた。
本やインターネットで情報を集め、「褒めるしつけ」を発信している県外のトレーナーの訓練を受けることにした。指導された関わり方を続けるうち、ジェイの表情は明るくなり、かみ癖が改善する兆しも見えてきている。
子どもたちが手を離れ、布施さんにとっては今が「第二の子育て期」。「毎日の散歩やご飯作りも、ジェイのためなら頑張れる。これからも一緒にいろいろな場所に出かけて、たくさんの人に癒やしを届けられたら」と目を細めた。