秋田県大館市の観光交流施設「秋田犬の里」で展示に参加しているむう太(雄、2歳)は、瞳を潤ませた上目遣いが得意。里では「恋するキラキラおめめ」のキャッチフレーズで紹介され、多くの来館者をとりこにしている。
今月5日、むう太は飼い主の池田晃さん(33)=鹿角市十和田=とともに、里の展示に登場した。展示室にはロープやダンベル型のおもちゃが転がっていたが、池田さんによると最近はあまり興味を示さないらしい。代わりに、前日の展示に入っていた犬の匂いが気になる様子で、床に鼻を近づけて嗅ぎ回っていた。
少々人見知りなむう太だが、里のスタッフにはよく懐いている。展示室に入ったスタッフがおやつを頭の上に掲げると、得意の「キラキラおめめ」が発動。上目遣いでおやつを見上げる瞳に、室内のライトが反射して光り輝いた。
この日は年末年始の連休最終日とあって、展示室の外に人だかりができる時間帯もあった。池田さんはむう太を抱きかかえると、ガラス越しに見学者の前へ。むう太は脚を使ってハイタッチを始めた。間近での“ファンサービス”にたちまち笑顔が広がった。
池田さんの家では代々、鹿角市のブリーダーから秋田犬を譲り受けており、家の中に秋田犬がいることは「小さい頃から当たり前だった」という。池田さんにとってとりわけ思い出深いのが、むう太の前に飼っていた雄の「ムック」。誰が触っても大丈夫なほど人懐っこかった。2019年には大館市で開催された秋田犬保存会の本部展に出かけ、来場していた元横綱朝青龍のドルゴルスレン・ダグワドルジ氏と写真を撮ったこともある。だが、21年1月、病気のため死んでしまった。
ムックが死んですぐは「仕事中も全然集中できないぐらい、ショックだった」と池田さん。1年ほどたつと、秋田犬に囲まれて育ってきたこともあり、また飼いたいと思うようになった。鹿角市のブリーダーが引退したため、元々親交のあった大館市のブリーダーから迎えることにした。
池田さんにとって5代目の秋田犬。飼育には慣れているかと思いきや「むう太は人見知りで、さみしがり屋。同じ犬でも性格が全然違う」と話す。
むう太の名付け親、池田さんの妹(26)がX(旧ツイッター)やインスタグラムの更新を担当。雪に潜り込む様子や大好きな人に会ってはしゃぐ姿など、むう太のかわいらしい写真や動画が並び、ファンから「癒やされる」と好評だ。
中でも能代市の道の駅ふたついで撮影した写真は、高評価を示す「いいね」が7・7万件つくほど話題になった。秋田犬になりきれる犬用の顔はめパネルに、むう太が顔をはめてみたら全く違和感がなかった―というのがオチで、「シンデレラフィット」「あまりにも自然」とのコメントが寄せられた。
妹はむう太との生活について「家で迎えてくれるときも、私の近くまで来ることもあれば、寝ながらしっぽを振るだけの日もある。気まぐれなところもかわいくて、癒やされます」と目を細める。
23年の里の展示デビュー以降も、むう太は活躍の場を徐々に広げている。昨年秋には、小坂町で飼われている雄の「白岳」とともに鹿角署の防犯キャンペーンに協力。イベントに参加し、家の施錠を呼びかけるチラシ配布を手伝った。大館市で来月開かれる「大館アメッコ市」にも登場する予定だ。
背景には池田さんの思いがある。「秋田犬の本場として、飼う人やブリーダーがもっと増えてほしい。そのためにも、飼い主の自分たちから魅力を発信していきたいんです」