愛犬家の裾野広げよう 獣医師・茂木利夫さんに聞く

 獣医師の茂木利夫さんほど秋田犬に心を奪われた研究者もいないだろう。「犬を知るためには犬の育った土地の文化的背景を知る必要がある」との持論を体現し、縁もゆかりもなかった大館に横浜から転居・転職したこともある。いまも続く大館との付き合いは、来年で四半世紀に及ぶ。秋田犬への愛情は大館への愛着と一対なのだ。

―犬種を理解するためには、犬の置かれた文化的背景をきちんと押さえなければならないというのが持論だ。

 犬には人間の用途に応じて改良されてきたという歴史がある。どういう目的で、どんな時代に、誰が作出したのかが分かれば、その土地でどういう役割を担わされてきたのかが分かるし、人との関係も理解できる。秋田犬はもともとマタギの狩猟犬だったが、藩政期から明治期にかけては闘犬として改良が進み、強さと大きさが求められた。その後は原型復興へと流れを変え、いまに至る。「清浄化」という言い方をしたりもする。秋田犬保存会がつくった「秋田犬標準」は、後世に秋田犬の原型をしっかり残したいという先人のメッセージだ。秋田犬がそれだけ原型から懸け離れていたということでもある。

―大館に12年暮らし、犬のしつけ教室などで大館に通い続けてさらに12年がたつ。何が見えたか。

 もともと秋田犬を取り巻く人間の営みに興味があった。大館での印象で言えば、犬に対する理解者が多い。戦後、絶滅のふちから復興させる力になったのは地元の旦那衆たちだった。人間と犬との関係に歴史があり、文化が息づいている。人間社会に適応させるため、犬をどうしつければいいのかという実践的なノウハウもある。そうしたことが伝えられていないことが少し残念だ。

―秋田犬を飼う人が減り、秋田犬自体も減っている。

 愛犬家の裾野を広げていかないことには、将来にわたって犬種を維持するのが困難になる。外の目から見ると、大館は犬の飼育環境として極めて適している。繰り返しになるが、それは犬に対する理解者が多いということ。そこで提案だが、伸び伸びとした環境で大型犬を飼ってみたいという都市部の人の潜在的な欲求に、大館が応えてやれないものか。市内には広い庭付きの空き家が多いと聞く。幸い、優秀な獣医師や訓練士もいる。移住を促すというやり方でもいいし、犬の管理を請け負うという方法もあり得ると思う。

―あらためて、秋田犬の魅力について教えてほしい。

 犬はその土地の民族性を反映する。温厚で物静か、平和的で我慢強い―秋田犬の性質はそのまま大館市民、秋田県民の気質と重なる。官民問わず、さまざまなチャンネルで秋田犬の魅力を発信し、一人でも多くの人に飼ってほしい。

 【もてぎ・としお】1947年、東京都中野区生まれ。横浜市住。獣医師。日本獣医生命科学大卒。90年、東京都庁を退職し、秋田県庁入り。大館保健所、県動物管理センターなどに勤務し、2002年退職。東京都獣医師会事務局長を経て、現在は都内の専門学校非常勤講師。専門は犬の分類学。

<2014年10月14日秋田魁新報朝刊、文中の年齢・肩書きなどの上方はすべて掲載当時のもの>

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モフモフした毛並みに、つぶらな瞳、くるりと丸まった愛らしいしっぽ。たくましい身体を持ち、飼い主に忠実な性格でも知られる秋田犬は、今や世界中の人気者です。海外での飼育頭数は増え続け、本場の秋田では観光振興に生かそうという動きも活発化してきました。秋田魁新報は「秋田犬新聞」と題し、国内外のさまざまな情報を発信していきます。秋田犬を通して世界と秋田をつなぐ―。そんなメディアを目指していきます。

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