今月上旬、人へのかみつき事故を起こした1匹の秋田犬を矯正する訓練が、秋田市雄和椿川にある県動物愛護センター「ワンニャピアあきた」で始まった。秋田犬の殺処分ゼロを目指す同市の一般社団法人「ワンフォーアキタ」のドッグトレーナー鈴木明子さん(59)が通い詰めること3週間。徐々にではあるが、犬に変化が表れてきた。
「大河、おいで」。20日昼ごろ、ワンニャピアあきたの一室で鈴木さんが呼び掛けると、フェンス越しに雄の秋田犬(3歳)が近寄ってきた。
「ほら、おやつだよ。座って」。言葉を続けると、尻尾を上げながら、鈴木さんの指からおやつをなめ、食べた。
大河という名前は「のびのびと生きていってほしい」との願いを込め、鈴木さんが付け直した。この秋田犬は昨年10月、大館市の民家で飼い主の家族にかみつき、けがをさせていた。
飼い主の男性(41)によると事故後、周囲から「人をかむ凶暴な犬がいるなんて怖い」「これまでもほえるのがうるさく、迷惑だった」などと苦情が寄せられ、家族らと相談していったんは保健所へ引き渡すことにした。
しかし、凶暴な犬は殺処分される可能性が高い。男性は「どうにかして命だけは助けてあげたい」と思い直し、ワンフォーアキタに相談。別の飼い主に譲渡することを前提に、訓練を実施することになった。
トレーナー歴約30年という鈴木さんが、これまでしつけに携わった犬は200匹を超す。秋田犬によるかみつき事故を何度も見聞きし、その都度、愛犬家の一人として居たたまれない気持ちになったという。
大河の訓練は8日にスタート。まずは鈴木さん自身や新たな環境に慣れさせようと、おしゃべりや餌やり、掃除などをしながら毎日2時間ほど一緒に過ごす。最初は人が近寄るだけで大きくうなり、にらみ付けていた大河だが、訓練開始から1週間ほどで少しずつ落ち着きを見せるようになってきた。
「大河の心には『飼い主に捨てられた』という悲しみがある。まずは心を開いてくれるのを待ち、それから人との関わり方を教えていきたい」と鈴木さん。今後、数カ月をかけてほえたり、かんだりしないよう訓練を進めていく。
「犬は気持ちを表現するためにうなったり、かんだりすることがある。でも、しつけさえしっかりしていれば、かみつき事故を起こすことはなかったはず」。犬がまた人と幸せに暮らせるよう願い、サポートしていく。