銅像建立でも“持っている”わさお 長毛秋田犬が紡いだ現代の忠犬ハチ公物語(上)

  • 2021-11-17
  • 2021-11-18
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青森県鰺ケ沢町のいか焼き店「きくや商店」の看板犬として全国区の知名度を誇った長毛秋田犬「わさお」。昨年6月に天国へと旅立った後も、多くの人に愛され続けている。長年わさおの写真を撮り続け、世話をサポートする支援団大「わさおプロジェクト」の代表を務める工藤健さん(53)は、以前から「わさおは現代の忠犬ハチ公ではないか」と考えていた。かつての飼い主、菊谷節子さん(2017年11月死去)は、工藤さんに「わさおが銅像になったらいいね。それはあなた次第だね」と言い残していたという。わさおの銅像はついに今月、同町に完成した。節子さんの遺志が実現したことに、工藤さんは「わさおの物語にピリオドが打たれると思うと寂しいという気持ちもあるが、肩の荷が下りた気がした」と晴れやかな表情を見せていた。
(取材・鎌田一也)

完成したわさおの銅像の前に立つ工藤さんと、わさおの「養女」ちょめ=11月8日、青森県鰺ケ沢町の観光物産施設「海の駅わんど」

「飼い主の帰りをずっと待ち続けたというハチ公の物語は分かりやすい。それに比べると、わさおのどこに魅力を感じるかというのは人それぞれで、一言では言い表せない」と工藤さん。捨て犬からメディアに引っ張りだこの人気犬へと駆け上がったシンデレラストーリー、多彩で愛くるしい表情、節子さんとの絆の強さ…確かに、わさおの魅力は多面的だ。「ただ、ハチ公もわさおも、その時代の空気が生み出したヒーローであることに違いはない。わさおは何かと“持っている”犬だ」と工藤さんは断言する。

わさおの死後、追悼行事を企画した町民有志「わさおありがとう実行委員会」(委員長=杉澤廉晴・町観光協会会長)の間から、町の知名度アップに多大な貢献をもたらしたわさおを顕彰するモニュメントを作ろうという話が自然に持ち上がった。ほっとした工藤さんだが、同時に「はじめから銅像ありきでお金を集めるのは、わさおらしくないな」という思いも抱いていた。

わさおと菊谷節子さん=2009年7月((C)WasaoProject)

「わさおらしさ」を語る上で外すことができないのが、節子さんと工藤さんが話し合いながら決めてきた行動指針「わさお三原則」だ。メディアやコマーシャルへの出演、グッズ化など人気が高まるにつれて次々と舞い込むようになった依頼にどう対応するか。基準としたのは▽地域性、社会性はあるか▽お互いさまの精神はあるか▽わさおと節子さんに無理をさせていないか―の3点だった。

「例えば、沖縄の観光PRのために東京でCMを撮るといった話をいただいても、出演料以外にわさおにメリットはなく、負担も重い。そういう話はちっともわさおらしくはない。わさおは東北新幹線全線開通に合わせたコマーシャルに出たことがあるが、地域性のある話題だし、町内で撮影が行われたので負担にもならなかった」。そうして、タレント犬とは一線を画したことが、わさお人気を息の長いものにしたと工藤さんは分析する。そうしてマイペースで行動していても、なぜか話題になってしまう―。そこもわさおが“持っている”ゆえんだとも。

モニュメント制作のための費用は募金、企業からの協賛と鰺ケ沢町へのふるさと納税でまかない、集まった金額に応じて何を作るかを考えるということで話はまとまった。それでも結局、約530万円と銅像を作るのに十分な額が集まった。

完成したわさおの銅像がお披露目された瞬間

銅像を作る段階でも幸運な出合いがあった。実行委は複数の業者に見積もりを依頼したが、金額的には各社とも大差なかった。そんな中、富山県の「黒谷美術」の提案は他とは一線を画していた。わさおらしい銅像を作るのにふさわしい作家の推薦や、原型となる木像の鋳造後の活用方法など、わさおに思い入れのある人々に寄り添った提案は、実行委メンバーの心をつかんだ。

黒谷美術の仲介で銅像の基となる木像の制作を担うことになったのは、三重県在住の彫刻家はしもとみおさん。今にも動き出しそうな生き生きとした作品に定評がある。わさおの名付け親であるメレ山メレ子さんとも知り合いで、以前から「かわいらしい姿にぴったりの名前を付けてもらえて良かったな」と思っていたという。

「わさお」木像の仕上げに取りかかるはしもとみおさん(はしもとみおさん提供)

今回の木像も、工藤さんが撮りためた写真や、工藤さんのわさおとの思い出話からイメージを膨らませながら、リアルな姿に仕上げた。木像と初めて対面した工藤さんが感極まる様子は、はしもとさんを密着取材していた毎日放送(大阪市)のドキュメンタリー番組「情熱大陸」でも取り上げられた。工藤さんは後日、自身のブログで「わさおが蘇ったと思った瞬間、言語化できない激情の波に飲まれてしまった」「黙っていても世に出ちゃうのが、やはりわさおが“持っている”というゆえん」と書いている。

「わさおの木像作りを通して、わさおの人気の高さを改めて実感した。それぞれの人が見ているわさおの姿を想像しながら、普遍的なわさおを目指した」とはしもとさんは振り返る。

銅像の鋳造後、木像ははしもとさんの元へと戻り、展覧会に出品されている。
「『わさお三原則』の一つである『お互いさまの精神』にそったもので、実にわさおらしい展開だと思う」と工藤さん。はしもとさんは「ブロンズのわさおくんは動けないので、原型のわさおくんは全国を旅して、たくさんの人に見ていただける存在であってほしい。生前のわさおくんにタイムスリップして合った気分になってもらえるとうれしい」と話している。

わさおの「サイン」入り、台座のさりげないこだわり

わさお銅像の台座は御影石製のシンプルなものだが、わさおが最も輝いていた場所といわれる、節子さんが運転していた軽トラックの荷台の高さに合わせて作られた。

正面の「わさお」というタイトル板は、「わさおがファンに向けてサインをするなら、どんな形になるだろう」と節子さんが考えたアイデアの一つを再現している。ほかに青森県知事からわさおに贈られた表彰状、鰺ケ沢町長からの顕彰状、わさおの来歴などが刻まれている。

わさお物語のバトンを継ぐ「ちょめ」 長毛秋田犬が紡いだ現代の「忠犬ハチ公」物語(下)

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モフモフした毛並みに、つぶらな瞳、くるりと丸まった愛らしいしっぽ。たくましい身体を持ち、飼い主に忠実な性格でも知られる秋田犬は、今や世界中の人気者です。海外での飼育頭数は増え続け、本場の秋田では観光振興に生かそうという動きも活発化してきました。秋田魁新報は「秋田犬新聞」と題し、国内外のさまざまな情報を発信していきます。秋田犬を通して世界と秋田をつなぐ―。そんなメディアを目指していきます。

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