自然や温泉を生かしたクアオルト(ドイツ語で「療養地」「健康保養地」の意味)を活用した観光振興に取り組む秋田県三種町で、秋田犬と一緒にウオーキングをして健康づくりに生かす体験プログラムが行われている。沿岸部の町にもまとまった降雪があった今月3日、ウオーキングのパートナー犬「マサ」に会いに行った。
(取材・鎌田一也)
この日、真っ白な雪に覆われたことおか中央公園に、町内のウオーキング愛好者約30人が集まった。「マサと初歩き」と銘打って、新春のウオーキングコースを一緒に歩くのだ。
大勢の人を前にして、マサは少し落ち着かない様子。差し出された餌を前に「待て」ができなかったり、会場に到着したばかりの人とじゃれ合おうとしたり。
そんなマサに、ウオーキング愛好者たちは、やんちゃな幼子を見守るように温かく接していた。多くの愛好者は子犬の頃からマサを知っており、同公園内を度々一緒に歩いているという。
マサは2020年4月生まれの雄。一般社団法人「ヘルスケアデザイン秋田」が提供する観光体験プログラム「秋田犬と散歩」のパートナー犬となってから2度目の冬を迎えた。
新型コロナウイルスの影響は大きく、ここ1年余りの利用者は合わせて100人程度と伸び悩んでいる。法人職員でマサを飼育する鎌田真広さん(39)は「せっかく予約が入っていても、コロナの影響でキャンセルされることも少なくなかった」と残念がる。
「秋田犬と散歩」の一番の売りは、参加者がマサのリードを持って歩くこと。マサはとても人懐っこく、人に対してほえかかることはないという。20年9月に鎌田さんとの生活が始まって以来、マサは町民と一緒にウオーキングを重ねることで、人に慣れていった。そのおかげで、今では犬に慣れていない人がリードを握っても大丈夫だという。
鎌田さんとマサが日々の散歩で訪れるのは、ほとんどがこの公園だ。自然豊かなコースをくまなく歩いたり、湧き水を飲んだりすることがマサの日常となっている。
ウオーキングが始まる前はやや興奮していたマサだが、いつものコースに足を踏み入れると落ち着いた。マサと親しくしている町民たちが代わる代わるリードを握り、森の中の道を静かに進んでいく。開けた場所に出ると、元気いっぱいに駆け回り、やんちゃな姿も見せた。
「もっと厳しくしつけた方が良かったのかなと思うこともあるが、マサの人懐っこさを観光客も喜んでくれるので…」と鎌田さん。
公園の近くに住み、ウオーキングコースを整備しているという木田章さん(79)は「マサは優しい顔立ちで見ているだけで癒やされる。これでも、来た時よりは大人になったよ」と笑顔で話した。
鎌田さんは「マサや『秋田犬と散歩』のプログラムは、まだ多くの人に知られていない。コロナ後を見据え、会員制交流サイト(SNS)などでの情報発信を強化しながら、健康経営に取り組む企業にも働き掛けていきたい」と意気込む。健康づくりを通した観光振興に貢献するマサの活躍は、これからが本番だ。
健康プログラム「秋田犬と散歩」 季節を問わず体験可能
まだ雪が積もる前の昨年12月、記者も「秋田犬と散歩」を体験した。秋田犬どころか、小型犬のリードも握ったことはない。最初はマサの力の強さに驚いたが、慣れてくると、強い引き心地が快感に思えてきた。秋田犬のオーナーがしばしば「他の犬を飼うことは考えられない」と言うのも分かるような気がした。
「秋田犬と散歩」は、季節を問わず体験可能。ことおか中央公園の駐車場に集合、公園内のコースを巡る。所要時間は健康チェック、準備運動、マサとの記念撮影を含めて約1時間。
開始時刻は午前9時半、午後1時半の2回。1週間前までに予約が必要。参加者が1人でも実施するが、悪天候の場合は中止、もしくは歩く距離や時間を短縮する場合がある。1人2千円(保険料込み。団体割引、子ども割引あり)。
この時期は防寒はもちろん、深い雪の中を歩くために長靴などの備えが不可欠。他の季節でも、歩きやすく防水性のある靴が望ましい。また、マサがじゃれついてきて、服を汚す可能性があるのでご注意を。問い合わせは鎌田さんTEL080・5663・4606