秋田県大館市の観光交流施設「秋田犬の里」の看板犬・誉(ほまれ)(雌、4歳)が今月で卒業する。イベントや展示で活躍し、「虎毛」の秋田犬の知名度アップにも貢献してきた。市地域おこし協力隊を退任する誉の飼い主・藤川琴里さん(25)=盛岡市出身=と共に、大館を離れることが決まっており、ファンからはこれまでの活動をねぎらう声が聞かれる。誉の卒業で協力隊の飼育する秋田犬はいなくなる。
「ふわふわでかわいいね」。今月5日、秋田犬の里では誉の卒業イベントが開かれ、事前予約のあった来場者が触れ合いや、写真撮影を楽しんでいた。
この日訪れていたのは、同市釈迦内の五十嵐奈菜恵さん(38)、長男優くん(6)、長女天音ちゃん(3)。天音ちゃんの誕生日が誉と一緒だったことに縁を感じ、親子でよく遊びに来ていたという。
子どもたちは誉から急に顔をなめられて驚いていたが、体をなでたり、おやつをあげたりするうちに自然と笑顔になった。「卒業はさみしいけど、これからも元気でいてほしいですね」と奈菜恵さん。誉の様子を眺めながら藤川さんは「触られても落ち着いていられる“お姉さん”に成長しましたね」と目を細めた。
誉は2019年6月、大館市内の犬舎で生まれた。名前は公募で決まった。「誉れ高い秋田犬らしく、強さと美しさを兼ね備え、活躍してほしい」との思いが込められている。
藤川さんは同年7月、協力隊員に就任。役割は秋田犬を飼いながら市の観光情報を発信すること。生後4カ月頃から誉を飼い始めた。
「初めて出会ったのは生後2週間ほどの頃。目がまだ開いていなくて、両手に収まるぐらいの大きさでした。きっとおとなしい子なんだろうなと思っていたけど、飼い始めたらおてんばな性格が出てきました」と笑う。誉は藤川さんの愛情を受け、元気いっぱいに成長した。
里では展示する秋田犬のうち、協力隊員が飼う秋田犬を看板犬と呼ぶ。誉も20年3月に看板犬として展示デビューが決まっていたが、新型コロナウイルスの感染が拡大。3~5月の約3カ月間、里は休館を余儀なくされた。藤川さんは「一番かわいくて、成長が著しい時期を皆さんに見てもらえなかったのが残念」と振り返る。
再開後は、赤毛の雄・勝大(しょうだい)と、白毛の雌・おもちと一緒に看板犬として活動。21年6月には、この先輩犬2匹が卒業したため、誉への注目度が一気に高まった。
「看板犬が虎毛の誉だけになったら、秋田犬ファンが離れてしまうのでは…」。不安はあったものの、誉の露出が増えることで、秋田犬に虎毛がいることを多くの人に知ってもらえるようになった。
22年には干支(えと)の寅(とら)にちなみ、誉と里の展示に出ている虎毛の秋田犬たちでイベントを行い、虎毛を広くPR。誉に会うために県内外から里を訪れたり、段ボールいっぱいにおやつを詰めて送ってくれたりするファンも現れるようになった。
今年10月、秋田犬の里の交流サイト(SNS)で卒業を発表。ファンからは「日々かわいく成長していく誉ちゃんを見るのを楽しみにしていたので、すごくさみしいです」「ずーっと大好きです」などのコメントが寄せられた。
大館を離れ、実家がある盛岡に戻る藤川さんは「誉は本当によく頑張ったし、たくさんの方に愛されていたんだなと改めて感じました。感謝の気持ちでいっぱいです」とし、「大館市には秋田犬が過ごしやすく、飼い主も育てやすい環境を整えてほしい。秋田犬の古里として、さらに盛り上がってくれたらうれしいです」と語った。