梅子が高橋家にやってきたのは昨年9月、生後1カ月半の頃だった。大館市の犬舎で同年7月に生まれた3きょうだいの1匹。そのうち、現在は熊本で暮らしているペペケオ(雄)は、「秋田犬新聞」にも登場している。
阿蘇山の麓に旅立ったペペケオ 日本文化の“伝導士”に (2020年10月掲載)
これまでにビビを含めさまざまな犬を飼ってきた高橋延枝さん(56)だが、秋田犬は初めてだった。
「以前から何となく秋田犬がほしいとは思っていたところに、秋田犬保存会で飼い主を募集していたのを目にした。縁あって、もらい受けることができた」
延枝さんは、家に迎える前に何度か犬舎に通いながら、高橋という名字に合う名前を考え「梅子」と命名した。
梅子を飼うと決めた時から、「一人でも多くの人と触れあい、慣れていけば、人間は怖くないと思ってくれるだろう」と店頭に出すことは決めていた。実際、高橋家にやってきた翌日から店への“出勤”を続けている。初めのうちはほとんどの客にほえかかっていた。今でも男性客はちょっと苦手のようだ。
そういえば、朝から密着していた男性記者(50)は、最初のうちはかなりほえられたが、後に合流した女性記者(26)は全くほえられなかった。それどころか、手に乗せたおやつもすんなりと食べてくれた。「初対面なのにすごい」と驚いていると、「普通はそうじゃないんだけどね。(女性記者のことを)気に入っちゃったみたい」と延枝さん。
梅子の暮らしぶりが一変したのは、高橋家に入って約7カ月後。店のツイッターに延枝さんが何気なく動画を掲載してからだ。
店員さん七ヶ月🔰 pic.twitter.com/leKW7DAAda
— リカーショップたかはし (@Rika__takahashi) February 24, 2021
決して梅子はレジを打てるわけではない(そもそも、店のレジは、商品のバーコードを読み取る方式だ)。それでも、懸命にレジに手を伸ばし、叩こうとしているように見えるしぐさは多くの人の目を引き、メディアからの取材も殺到した。
「私たちの動きを見ていて、レジの中に大切なものが入っているということは理解しているのでしょうね」(延枝さん)
以来、梅子を目当てに店を訪れる人が増えていった。「ネットで話題が広まるうちに、話がどんどん大きくなっていった」と夫の盛喜さん(52)は苦笑いする。
ともあれ、梅子には「販売促進部 レジ係」という肩書きが与えられ、名実ともに店の看板犬となった。店の場所が分からないという人のために近隣の商店やガソリンスタンドに梅子の名刺を置いてもらっている。
また、人気に注目した鹿角署は今年5月、梅子を「秋田犬(県)警察官」に任命。梅子は小学生の見守り活動や特殊詐欺防止のキャンペーンに同行している。警察官の仕事の時には、署員手作りの「制服」を身に付けている。背中の部分は「秋田犬警察」と書かれているだけだが、ネクタイ姿の前面や制帽はかわいらしい。
8月下旬には大館市の観光交流施設「秋田犬の里」の展示室デビューを予定している。当初は7月中にデビューするはずだったが、梅子の体調が整わず、先延ばしとなっていた。「梅子は臆病で本当にナイーブ。最初のうちは取材を受けた後はお腹を壊したりしていた。最近は少し落ちついてきたかな」と延枝さん。
「最初のうちは、梅子がほえればお客さんが来たと分かるので、後ろで休んでいたこともあった」と話す延枝さんだが、最近は見知らぬ客でもほえかかることはすっかり少なくなったという。
ただし例外もある。それは、正面入口ではなく、裏口(西口)から誰かが入ってきたときだ。「間違って私たちに対してもほえることがある」と延枝さんは嘆くが、店の番犬としては極めて優秀だとも言える。
“レジ打ち動画”でブレーク! 酒店の看板犬・梅子の日常
(1)朝の散歩
(2)出勤
(4)常連客との交流
(5)閉店後のお楽しみ