午後7時45分ごろ、閉店時間が迫り、高橋延枝さん(56)がレジ締め作業を始めると、梅子はにわかにそわそわし始めた。カウンターの中を何度もウロウロしたり、ボールをくわえたりしている。
午後8時に営業を終え、店のシャッターを下ろした後、家に帰る前に店内で盛喜さん(52)と遊ぶのが梅子の日課だ。それが待ちきれないといわんばかりに、動きがせわしなくなるのだという。
高橋家に来た当初、はしゃいで店内を走り回っていた梅子が棚に置いてあった焼酎の瓶に頭から突っ込み、ボウリングのピンのようにはじき飛ばす “事故”も起きたという(幸い梅子にけがはなく、急性アルコール中毒も免れたそうだ)。
最近は店内のものを壊さないように手加減しながら遊ぶようになったというが、客のいない店内を自由に駆け回る梅子は幸せそうだ。
「最初のうちは、梅子と一緒に遊ぶのが本当に楽しかった」と話す盛喜さんだが、遊びといっても、投げたボールをキャッチさせたり、拾いに行かせたりなど、やれることはさほど多くない。
「私自身は2週間ぐらいで飽きてしまったというのが正直なところ」
それでも、梅子はこの時間をとても楽しみにしているため、今も欠かさず続けているという。
一通りボール遊びを終えると、しつけの成果の復習が始まった。
直立した盛喜さんが「回れ」と声をかけると、梅子は足元を3周。続いて「高橋梅子ちゃん」と名前を呼ばれると「ワン」と返事をした。
最近始めた「お手」では、梅子は盛喜さんの手のひらに前足を乗せると同時になめるようなしぐさも見せる。頭の中には、うまくできた時にもらえるご褒美のおやつのことしかないのかも…。「何か変なお手だよね」と傍で見ていた延枝さんは笑う。
用意したおやつがなくなった時点で盛喜さんとの遊びの時間は終わった。「こんなにおやつを食べちゃうと、明日はまたえさを食べてくれないんだろうなあ」と延枝さんは心配そうだ。
店を出た延枝さんと梅子は夜の散歩へと出掛けていった。店を盛喜さんに任せて午後6時半ごろに出発する日もあるというが、この日は周囲がすっかり暗くなってからになってしまった。
こうして梅子の長い一日は終わりを告げた。特別な事件やイベントがあったわけではないが、次々と変わる梅子の表情を見ていて、飽きることはなかった。これからも「リカーショップたかはし」の看板犬として多くの客に笑顔をもたらしていくのだろう。